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19.朝の噛み傷1
そう言えば、探偵から何か作れと言われていた。
朝ご飯、変な名前で、確か卵料理の、
「えっぐえぐねくとん…」
「エッグベネディクトだ、一条君」
…ああ、それそれ。
重たい瞼をこじ開けると、毛布のはだけた素肌が見えた。
色黒まではいかないが、健康的な色の胸板は、程良く引き締まっている。
肘を突いた腕には筋肉が盛り上がり、ひどく男っぽかった。
僕は自分の体も見てみる。
色白と呼ぶほどではないが、最近は陽射しのキツい時間にもあまり出歩かなくなったし、運動もしなくなって久しいから、筋肉も落ちたし。
……ん?なんだ、この肩の傷は??
噛まれた痕…?猫?……じゃないよな。猫の口よりだいぶ大きい。
探偵がこちらを見て、低い声で笑った。
「おはよう、一条君」
「おは…よう…」
探偵が身を起こす。毛布がはらりと落ちて、僕に降りかかった。
探偵が立ち上がる。
一糸纏わぬその姿に、思考が乱れた。
───なんでこいつ裸なんだ!?
なんでこいつと一緒に寝てたんだ!?
まさか僕も───!?
なっ……!!
「なんで僕っ、服っ!?」
「服なら私が脱がせたよ。寝るときに布や縫い目が当たると気になるだろう」
「なっ…なんにもしてないだろうなっ…お前っ!」
「何故私が君に何かしてやらなくてはいけないんだい。君が自分の部屋の鍵も開けずに眠ってしまうから、捨て置いて死なれても後味が悪いと思って、親切で連れ帰ってやったと言うのに」
「あ……そっか。…それは、悪かったな。…ありがとう」
「いいえ」
そ…そうだよな。いくら探偵でも男に、ましてや奴隷だと思ってる僕相手に何かする趣味があるとは思えない。
悪いこと訊いちゃったな。
一度部屋に戻ってシャワーを浴びないと。昨日の服はどこだろう。
探偵はあのまま寝室を出ていったけれど、裸でうろうろするなんて慣れなくて、僕にはなんだか小恥ずかしい。
肌触りの良い毛布を羽織って部屋を出ると、バスルームからシャワーの音が聞こえた。
それと一緒に、洗濯機を回す音…が……。
まさ…か───!!
「探偵、僕の服は!?」
声を大きくして尋ねる。水の音が止まり、ドアがガチャリと音を立てた。
「今洗っている。それよりも、そこからバスタオルを取ってくれないか」
「えっ?バスタオル…」
洗面台脇のキャビネットからバスタオルを一枚取り出し、探偵に手渡す。
ふわっふわのバスタオル……高そうだ。
「ガスは付けたままだから、君もシャワーを使ってくるといい」
「えっ…、いや、そうじゃなくて、僕の服が…」
「それにしても、一晩剃らなくても一本も生えてこないとは、君は中学生か」
「えっ?な、なにが?」
「髭だよ、ヒゲ」
探偵の指先が顎に触れる。
その屈辱的な物言いに、僕は顔が熱く燃え上がるのを感じた。
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