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20.朝の噛み傷2
シャワーを浴び終えると、バスローブが用意されていた。
勿論探偵サイズの物であるから、僕には大分大きい。
いつも朝食を作って運んできてやるダイニングのテーブルには、フレンチトーストとサラダが乗っていた。
コーヒーのカップを2つ運んできた探偵は、感謝し給え、私の奢りだと言った。
下のカフェのモーニングをテイクアウトしたようだ。
…いや、探偵が一本電話でもすれば、下の女の子たちは誰が届けるか争うように運んできてくれるか。
ご飯代を───そう言えば、昨日の酒代もタクシー代も払っていない。
それを伝えると、探偵は誘ったのは自分だからと受け取りを固辞した。
「君に金を出してもらうほど、私は落ちぶれてはいないよ」
酷い物言いだ。感謝したくなくなる。
朝食を食べ終えると探偵は洗い物を済ませておくようと一言、僕の服を取りに行くからと部屋を出ていった。
食器をシンクに運び、バスローブの腕を捲る。
流し台はうちと同じだから不便はないが、袖がどうも…15㎝の身長差が憎らしい。
手足の長さに至っては、それ以上の隔たりを感じなくもないし。
「よし、おしまい!」
最後の皿を拭き終えて、食器棚へしまう。
ちょうどその時、チャイムが何度か連続で鳴った。
それから、玄関ドアを激しくノックする音。
探偵が鍵を開けろと言っているのだろう。
「自分で開ければいいのに」
バスローブの袖を直して玄関へ向かう。
「はいは~い」
玄関を開ける。───と、
「フザケんなよ!テメェなに勝手に人のマンション解約してやがる!」
若い女の子が、兇悪な形相で怒鳴り込んできた。
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