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21.天然人タラシ1
「あな…た、は…?」
長い黒髪、表情を崩した彼女は、一瞬前と打って変わって至極女性らしく見えた。
よくよく見れば清楚な服装に薄付きのメイク、それでも元の顔がハッキリしているせいかその表情はぼやけて見えない。
整った顔の娘だった。
「…大家の…一条です…」
名乗ってから、自分の姿を思い出す。
大家が店子の部屋でバスローブは、普通に考えておかしい。
「あの、昨夜青山と一緒に飲んでいて、帰り道で寝てしまったので連れ帰ってもらったらしくて」
慌てて説明するも、これでは僕がダメな大人だと言っているみたいじゃないか。
気付いて余計に焦りを覚える。
彼女は探偵に会いに来たのだろう。そうだ、まずは探偵の居所を…
「えっと、青山は今、僕の部屋に服を取りに行ってくれていて」
ああっ、これもダメだ!益々僕という人間が何も出来ないという印象を強くしてしまうじゃないか。
「あ、良かったらコーヒーを入れるから、中にどうぞ。紅茶の方がいいかな」
「君はそうやって…知らない人間を誰彼構わず誘い込んで、危険だとは思わないのかい?」
「あっ、青…」
「これが私のストーカーだったらどうするつもりだ」
「こん…っの、誰がストーカーだ!クソ兄貴!!」
形相の変わった彼女の顔が見えたのは、一瞬のことだった。
頭にふぁさ、と飛んできた服に視界を隠され、首を振って落とそうとすると背中をぽんと押された。
「こんなでも一応うら若き娘だ。着替えてこられるかい、一条君」
「あっ、そっ…そうだよねっ!」
ごめんなさい!と頭を下げると、「こんなっつーのはどういう意味だジジイ!」と怒鳴っていた彼女が、頬を赤らめ顔を逸らした。
「い、いえ…お気になさらないで下さいませ。私、もう子供ではございませんもの。平気ですわ」
難しいお年頃、みたいだ。
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