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23.天然人タラシ3

どういう事だ? ここ──一条ビルディングは、3階建てだ。 地下はバー、1階はカフェと管理人室、2階が探偵事務所と空きの貸事務所で、3階は屋上も兼ねているから少し狭くなっている。 僕の部屋と青山の部屋。住居スペースは3階の2部屋だけで、現在空いている部屋なんて無い。 じゃあ、探偵がここを出て行くと言うこと? 事務所…畳んじゃうんだろうか。 それは…それで…淋しい…かもしれない…。 「一条君、詩子をここに住まわせるのには反対かい?それはそうか。これは粗野で乱暴な娘だからね。ほら見てごらん、この兇悪な顔を」 「えっ、反対なんてするわけないよ。それに、詩子ちゃんとっても可愛いじゃないか。女の子にそんな風に言ったら失礼だよ」 「口も言葉遣いも悪ければ、容姿もそこそこ」 「何言ってんだよ。そこそこじゃないよ、すっごい可愛いよ。口調が荒くなるのだって、君が怒らせてるからじゃないか」 「ふむ、ならば問題ないな。詩子、此処からなら短大まで都営地下鉄で1本だ。立地は今のマンションよりも良い筈だ」 「えっ!?…えぇ、そう…ですね…」 探偵に返事をした詩子ちゃんは、何故か顔を真っ赤に染めていた。 掌を両頬に当て、視線だけでちらりとこちらを見る。 探偵は眉をしかめ、彼女から視線を外した。背中にポンと手が添えられる。 「では、君は今週中に部屋から荷物を運び出し給え」 「え……?えっ、僕!?なんで!?」 「今君が住んでいる部屋に詩子が入るからだよ。それとも君は詩子が路頭に迷えば良いと言うのかい。それは酷い」 「えっ、いやっ、そんなことないけど、なんで!?」 「私の食事は誰が作るんだい」 「えっ?僕…?」 探偵の意図が分からない。 「お兄様!私が入る部屋は風吹さんのお部屋ですの!?それならそうと早く言って下さいまし」 「そうだよ、青山!僕の使ってた部屋なんて、若い女の子じゃ嫌に決まってるじゃないか。せめてクリーニングを入れ…」 「クリーニングなんていりませんわ!」 なんで!?食い気味に来た…!? 「では決まりだ」 「何が決まりだ!?」 「一条君は私の部屋に間借りする」 「間借りぃっ!?」 仮にもオーナーだぞ、大家さんなんだぞ僕は! 「詩子は一条君の部屋へ転入」 「了解ですわ!」 何故か詩子ちゃんはビシッと敬礼。 「青山っ!!」 「今度君が泥酔してしまっても、同じ部屋ならまた連れて帰るが、さて……」 「もう、酒飲み過ぎで寝たりなんて…」 しない、って、そう言い切りたいけれど…… 「風吹さんは、詩子が路頭に迷っても平気ですの?」 瞳をウルウルさせて、顔を覗き込まれる。 あーっもう! 「わかったよ、此処に越すよ」 兄妹でタッグを組むとか、さっきまで仲悪かったくせに、卑怯だろう! 文句の言葉を飲み込んで睨み付けると、探偵は愉しそうに口元を緩めた。 妹の方も来た時の迫力は何処へやら、授業があるからと鼻歌交じりに去って行った。 なんで…なんで2人とも、嬉しそうなんだよ……。

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