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27.君が煽らなければ3
道を歩く。荒々しい足取りで。
なんか嫌だ。探偵がそういうことをした事務所になんか、戻りたくない。
現在進行形でそうなっているなら尚更離れていたい、なるべく遠くに行きたい。
大体あれは、探偵の恋人じゃないじゃないか。
好きな女性以外にそういうことができる輩の気が知れない。
───そんな潔癖ヤロー、お前だけだって。女の子みてェ。
高校の頃、友達にそんなことを言われたことをふと思い出した。
───ホントかわいーよな、お前。
からかわれて、押し倒されて、あろうことか鎖骨に口付けられた。
勿論ただの冗談で、股間に一撃ガツンと入れたら痛みに転げた後、謝られたけれど。笑いながら。
男にキスされたり、齧られたり、…10年経ってもこれか。
なんにも成長してないのかな、僕は。
それとも本当に、女の子みたいに見えるんだろうか。
立ち止まり、ショーウインドウに自分を映す。
脳裏に先ほどの弁護士の凹凸の激しい体がポンと浮かんだ。
……いやいやいや。
やっぱり完全男の体形だし。
どう見ても魅惑的なボディって感じじゃないし。
ショーウインドーから視線を逸らして、再度足を進める。
あーあ…昼飯どうしようかな。やっぱり帰って作ってやらなきゃいけないのかな。
嫌だな、しばらく実家に帰ろうかな。
でもそうしたら、また中途半端に投げ出してって、叱られんのかな…。
溜息が盛大に吐き出される。
……なんで俺が気を使ってやんなきゃなんねーんだよ!
もういい加減脱力して、地面にしゃがみ込んだ。
大体、俺は下町育ちなんだよ。
ばあちゃんから、ここは青山だから上品に振る舞えって言われたから修正してるだけで、疲れたら素が出んだよ、品良くなんてしてらんねーんだよ。
なんだよもう、このオシャレタウンは。疲れるんだよ、もうやだ!
「一条様…?」
声をかけられて目を開く。
目の前に、黒い革靴が立っていた。
黒いスーツに───
「お具合が悪いのでは?よろしければこちらへ」
───白い手袋。
「中川…さん?」
更科春子の秘書の、中川さんだった。
「本日は少々気温が高いですから、熱中症の初期症状かもしれません。どうぞ、車の中は空調が効いておりますから」
少し屈んで白手袋の手を差しのべてくる。
だめだ。今そんなに優しくされたら俺、俺───
「中川さん!」
「一条様…?」
がばりと抱き着つと、少しビックリしたようだったけれど、中川さんはそのまま俺を抱き上げて車まで運んでくれた。
黒い高級車、「横になられますか?」と訊かれたけれど首を横に振って、助手席にお邪魔した。
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