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32.真っ直ぐな人2

店の入り口、薔薇で彩られた門の向こうを確認する。 人影はない。春子さんが出てくるまで、まだ時間はあるだろうか。 先ほど見た知った顔は、まだ街路樹の下に立ったままだ。 今日は1人?仕事が休みで誰かと待ち合わせしているんだろうか。 車を降りて、バッと走りだした。 彼はハッとしたようにこちらに目をやり、 「葵君っ」 抱き着こうとした僕の腕を、 ───捻りあげた。 「いたっ───!ギブギブッ」 「っ───すみません、風吹さん!お怪我はありませんか!?」 「平気。…うぅー、ちょっと痛いけど」 解放された腕をさする。 葵君、綺麗な顔をして、とんだ馬鹿力だ。 「すみません、条件反射で…」 「それなら僕も悪かったから。葵君見かけたから嬉しくて、走って抱きつこうとしちゃって」 「抱きつこ───つッ…!!」 葵君が顔を顰め、斜め上へ視線を向けた。 「この方に何か?」 さっきとは逆に、葵君の腕が捻りあげられていた。 「貴方は?」 痛みを堪えて睨み付けた先に、高虎の顔がある。 2人の鋭い視線が交差した。 ───と、 「っ…!?」 高虎のその腕を、何時現れたのか正さんが掴んでいた。 やがて顔を顰めた高虎から葵君の腕が自由になると、すんなり手を離す。 「正さん、つよーい」 思わず呟くと、葵君と高虎は気まずそうに視線を逸らした。 「いやぁ、力が強いわけじゃないよ、風吹ちゃん。俺ァ、ジジイだからね、ちょっとしたコツを知ってるだけさ」 百戦錬磨ってやつか。正さんもかっこいいおじちゃんだな。 高虎に筋トレ習って、正さんにコツを習えたら、僕でも無敵になれるんじゃないか。 「ねえ、正さん。僕にも───」 「風吹」 「ん?」 高虎の声に顔を上げる。 「………」 目が厳しい…。 「すみません…」 「いえ。こちらはお知合いですか?」 「えっ、あ、うん。正さんと葵君。け…」 警察の人だと言いかけて、思いとどまる。 2人が揃っていると言うことは、これは仕事なのだろう。遠巻きに春子さんを護っていてくれているのかもしれない。 邪魔をしてはいけない。 「2人共僕の友達だよ。正さん、葵君、こちらは中川高虎さん」 「失礼」 高虎は軽く会釈して車に帰っていく。やっぱり怒らせちゃったかな。 「ごめんね。ホントはもっといい奴なんだけど…」 「いえ、全面的にこちらに非がありますから」 「じゃあ、次に会ったら仲良くできるね」 「仲良く…ですか?」 「うん。…だめ?」 伺うように葵君の顔を覗き込む。 その後ろで、正さんがプッと吹き出した。 「いや、葵ちゃん、風吹ちゃんには敵わねぇわな。こりゃあ仲良くしねーと」 「…努めます」 渋々と言った感じだけれど、正さんに後押しされて葵君は頷いた。 「よかった。じゃあ僕春子さん待たなきゃだから、またね。2人ともお仕事頑張ってね」 「おや、風吹ちゃんは更科春子とも友達かい?」 「ううん、まだこれから!」 また走って店側に戻る。 コンコンと車の窓を叩くと、少しだけ窓が開いた。 「どうしました?」 声が尖っている。やっぱりまだ怒ってるみたいだ。 「腕痛くない?僕のせいで、ごめんなさい」 「…いえ、少し驚きましたが、何てことありませんよ」 声音が柔らかくなって、更に優しい手が頭を撫ぜた。 「それよりも風吹、春子様がいらっしゃいました。お出迎えを」 「あっ、うん!」

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