33 / 211
32.真っ直ぐな人2
店の入り口、薔薇で彩られた門の向こうを確認する。
人影はない。春子さんが出てくるまで、まだ時間はあるだろうか。
先ほど見た知った顔は、まだ街路樹の下に立ったままだ。
今日は1人?仕事が休みで誰かと待ち合わせしているんだろうか。
車を降りて、バッと走りだした。
彼はハッとしたようにこちらに目をやり、
「葵君っ」
抱き着こうとした僕の腕を、
───捻りあげた。
「いたっ───!ギブギブッ」
「っ───すみません、風吹さん!お怪我はありませんか!?」
「平気。…うぅー、ちょっと痛いけど」
解放された腕をさする。
葵君、綺麗な顔をして、とんだ馬鹿力だ。
「すみません、条件反射で…」
「それなら僕も悪かったから。葵君見かけたから嬉しくて、走って抱きつこうとしちゃって」
「抱きつこ───つッ…!!」
葵君が顔を顰め、斜め上へ視線を向けた。
「この方に何か?」
さっきとは逆に、葵君の腕が捻りあげられていた。
「貴方は?」
痛みを堪えて睨み付けた先に、高虎の顔がある。
2人の鋭い視線が交差した。
───と、
「っ…!?」
高虎のその腕を、何時現れたのか正さんが掴んでいた。
やがて顔を顰めた高虎から葵君の腕が自由になると、すんなり手を離す。
「正さん、つよーい」
思わず呟くと、葵君と高虎は気まずそうに視線を逸らした。
「いやぁ、力が強いわけじゃないよ、風吹ちゃん。俺ァ、ジジイだからね、ちょっとしたコツを知ってるだけさ」
百戦錬磨ってやつか。正さんもかっこいいおじちゃんだな。
高虎に筋トレ習って、正さんにコツを習えたら、僕でも無敵になれるんじゃないか。
「ねえ、正さん。僕にも───」
「風吹」
「ん?」
高虎の声に顔を上げる。
「………」
目が厳しい…。
「すみません…」
「いえ。こちらはお知合いですか?」
「えっ、あ、うん。正さんと葵君。け…」
警察の人だと言いかけて、思いとどまる。
2人が揃っていると言うことは、これは仕事なのだろう。遠巻きに春子さんを護っていてくれているのかもしれない。
邪魔をしてはいけない。
「2人共僕の友達だよ。正さん、葵君、こちらは中川高虎さん」
「失礼」
高虎は軽く会釈して車に帰っていく。やっぱり怒らせちゃったかな。
「ごめんね。ホントはもっといい奴なんだけど…」
「いえ、全面的にこちらに非がありますから」
「じゃあ、次に会ったら仲良くできるね」
「仲良く…ですか?」
「うん。…だめ?」
伺うように葵君の顔を覗き込む。
その後ろで、正さんがプッと吹き出した。
「いや、葵ちゃん、風吹ちゃんには敵わねぇわな。こりゃあ仲良くしねーと」
「…努めます」
渋々と言った感じだけれど、正さんに後押しされて葵君は頷いた。
「よかった。じゃあ僕春子さん待たなきゃだから、またね。2人ともお仕事頑張ってね」
「おや、風吹ちゃんは更科春子とも友達かい?」
「ううん、まだこれから!」
また走って店側に戻る。
コンコンと車の窓を叩くと、少しだけ窓が開いた。
「どうしました?」
声が尖っている。やっぱりまだ怒ってるみたいだ。
「腕痛くない?僕のせいで、ごめんなさい」
「…いえ、少し驚きましたが、何てことありませんよ」
声音が柔らかくなって、更に優しい手が頭を撫ぜた。
「それよりも風吹、春子様がいらっしゃいました。お出迎えを」
「あっ、うん!」
ともだちにシェアしよう!