36 / 211
35.姉と妹3
遠くなっていく背中を黙って見つめる。
曲がり角を曲がって、探偵の姿が見えなくなって、───急に力が抜けた。
ペタンと地面にへたり込む。
一気に怒りが爆発して、疲れたぁ……。
「…お腹、減った」
声に呼応するように、お腹がくぅ~と音を出す。
「あ……、猫にあさごはんあげてない…」
外側の猫も、戻って来たみたいだ。
上品ぶって「僕」とか言って、慣れない自分に疲れているつもりだったけれど、半年も経って「僕」の方も自分になっていた、と言うことか。
お昼ごはん、どうしようかな。お金持って出てこなかった。
ペコペコのお腹を庇うように、膝を抱えて座り直す。
家には、戻りたくないし…、やっぱり実家に帰って……。でも猫の餌、探偵のやつ、きっと忘れる。
「風吹ちゃんは、雪ちゃんが嫌いなのかい?」
思いがけない質問に、いつの間にか傍に来ていた正さんの顔を見た。
「え、…なんで?」
「雪ちゃんのこと、もうごめんだ、って言ってたじゃない」
「え?そんなこと、僕…?」
確かに、探偵に散々文句は言い放ったとは思うけど、もうごめんだなんて、そこまでは………あっ!
あれか?上品ぶった青山の街なんてごめんなんだよって言葉が、曲解された!?
「えっ、嘘!そう取れた!?」
「そうじゃないのかい?」
「そうじゃないよっ!確かにあいつは我儘で自分勝手で頭来るけどっ、嫌いだったらはじめっから面倒なんて見てやらないよ!」
「だったら、追っかけてやんないと。雪ちゃん傷つきやすい子だから」
「えっ、そうなの!?もーっ、めんどくさいやつ!!」
探偵、どっちに行った?ここ何処だ?どっちに行けば家に着ける?
「風吹さん、右です!」
曲がり角、左へ行こうとすると葵君の声が響いた。
「ありがとー!」
慌てて逆へ進むと、大通りへ出た。
ここまでくれば道に迷うこともない。
ともだちにシェアしよう!