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36.らしくない1

結局途中で追いつくことはできずに、スタート地点に戻ってきてしまった。 もしかしたらまだ戻っていないかもしれない。 また別の女の人のところへ行って、慰めてもらっているかもしれない。 けど……… 「めんどくせーなっ」 管理人室の前を抜けて、階段を上った。 勢いのままドアをあけ開いて、足をドア枠にダンと掛ける。 「ベソベソ泣いてんじゃねーぞ、クソガキが」 探偵はいつもの席に座ったまま、黄昏ていた。 「もう戻らないのかと思った」 聞き取りづらい声。心なしか水分を含んでいるように感じる。 まさか、本当に泣いていたわけでもあるまいに。 「なんで俺が戻ってきちゃいけないんだよ。出て行くならオーナーじゃなくて、店子のお前だろ」 「…そうか」 「走って帰って来たから疲れた。喉乾いたから茶ァ淹れろ」 「…私がか?」 「これからも俺のメシ食いたきゃ淹れてこい」 「…君がそれでいいのなら……」 「ガタガタ言ってねェで早くしやがれ」 探偵は少し目を伏せて、笑ったように見えた。 さて、お茶を入れさせたはいいけど、……入りたくないぞ、こんな部屋。 探偵の呼んだ弁護士の顔が嫌でも脳裏にちらつく。 とりあえずすぐにも電話して、出来るだけ早くクリーニング入れて…… よし決めた。今日から事務所は依頼人以外の女人禁制にしよう。 玄関に【女性は立入禁止】って看板出そう。 …いや、それだと女性差別だって怒られる? 前のビルのおばちゃんとか、そう言うの五月蠅そうだしな。 一階のカフェの店長にも嫌な思いをさせてしまうかもしれない。 あぁっ、それより、それじゃあ詩子ちゃんが入れなくなっちゃうじゃないか。 「…一条君、入らないのか?」 「なんで控えめだよ!お前いつももっと偉そうだろーが」 ツッコんでから、探偵の姿を確認した。

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