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40.好きなら好きと言えばいいんだ2
探偵が事務所の出口に目を向けた。
誰か来たのかと振り返ったと同時に、ドアが開く。
「ただいま帰りましたわ、風吹さんっ」
満面の笑みを浮かべた詩子ちゃんだった。
「授業はどうした?サボリかね」
「あら、お兄様もいらっしゃいましたの。依頼人はいらっしゃらないようですわね。本日はお休みですの?」
「お前の家はまだ此処ではないだろう。帰るならばマンションの筈だ」
「風吹さんがいらっしゃる場所が私の帰る場所ですもの。お兄様こそ、お早く引っ越し先をお探しあそばせ」
詩子ちゃんが僕の隣に腰を下ろすと、探偵は苦虫を噛み潰した顔をしてそっぽを向いてしまう。
この兄妹、もう少し仲良くならないものかな。
「おかえり、詩子ちゃん。何か飲む?喉乾いただろ」
「風吹さんが淹れて下さいますの!?」
「うん。嫌じゃなければ」
「きゃ~っ!詩子、とても幸せです!」
詩子ちゃんは両手を頬に当て、ワントーン高い声を上げる。
飲み物ぐらいでそんなに喜んでもらえるのは嬉しいけど…。短大生のテンションがよく分からない。
10コぐらい離れてるもんなぁ、ジェネレーションギャップってやつ?
僕ももう、おじさんってことか。
「いや、一条君は結構だ。詩子には私が淹れてやろう」
何故か探偵が素早く立ち、通り過ぎざま肩を押してソファーに戻された。
「む…。でもいいですわ。お兄様がいなくなれば、風吹さんと2人きりですもの」
「一条君、君も来たまえ」
給湯室手前まで行っていたくせに、戻ってきて腕を掴む。
…なんだなんだ、お前たち兄妹は。
「僕たちのおかわりも淹れてくるから、兄妹で仲良く待ってなさい」
「兄弟と言うなら、君も私の兄なのだろう」
「うん。だからね、ちゃんとお兄ちゃんの言うこと聞いて、座って待ってなさい、雪光」
腕を引き返すと、意外やおとなしく探偵は従った。
ソファーに座ると長い溜め息を吐き出し、長い足を投げ出す。
「わかったよ。君には適わない」
その向こうで、きゃーっ、と詩子ちゃんが足をバタつかせるのが見えたけれど、それが嫌がっているからではなく歓喜の悲鳴に聞こえて、気にしないことにして給湯室のドアを開けた。
「きゃ~っ!強気受け様~っ」
なんだろう?ツヨキウケサマ??
パタンと扉が閉まると、向こうの声は聞こえなくなった。
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