42 / 211

41.素敵な受け様1

今日の探偵は、なんだか変だ。 いや、今日だけじゃない。昨日から、かな。 更科春子の案件が持ち込まれてから…本人が来てからか。 一昨日までと少し違う。 自分勝手で人のことを奴隷として扱っていたあの男が、おとなしく言うことを聞いたり、僕を捜して走り回ったり。 半年掛けて、やっとお兄さんに懐いたってことかな。 好きだってちゃんと認めたしな。ふふっ、可愛いヤツめ。 アイスティーのグラスをトレイに載せて戻ると、予想の範疇と言うか案の定と言うか、探偵と詩子ちゃんは見事に言い争いをしていた。 探偵に言い負けない女の子ってのも貴重だな…と感心していると、気付いた詩子ちゃんが早く早くと自分の隣の席をポンポン叩く。 探偵をちらりと伺うと、不機嫌そうにソファーの背もたれに身を任せた。 「お待たせ」 グラスを三つテーブルに置いて、詩子ちゃんの隣に座る。 「ありがとうございます、風吹様」 きゃ~っ!と一際高い悲鳴。 どうやら悲鳴の先は、僕…らしい? 風吹さん、から風吹様、に昇格しているし。 女の子の心情は、一瞬で大幅に変化するから難しい。 「私この後出かけなくてはなりませんの。風吹様と共にいられるのも後僅か」 手を両手で握られて、見上げる瞳はウルウルと濡れる。 本当に、一体彼女に何があったのだろう。 「え、と…。何処行くのかな?」 「サークル活動ですわ」 きゃっ、と両頬に手を当てる。とても楽しそうだ。 「サークルの皆様にも風吹様をぜひご紹介したいですわ」 「僕より雪光の方が女の子には喜ばれるんじゃないかな? 短大生から見たら僕なんかもうおじさんだし」 「まあ!何を仰いますの。風吹様はとってもと~っても素敵なう…」 「なう…?」 何故ツイッター風? 「とにかく、兄様など比べ物にならないくらい、素敵ですの!」 拳を握りしめて、鼻息も荒く詩子ちゃんは言い切った。 う~ん…、世の中色んな趣味の人がいるからな。 オジサン好きとかポチャ好きとか。 詩子ちゃんは探偵と仲良くないみたいだし、真逆の人間がタイプということなのかもしれない。 素敵と言われるのは正直嬉しいけど。 「一条君、これは少し変わっているのだ」 探偵よ、嬉しいと思った僕の気持ちを一体どうしてくれる。 「詩子は、これを飲み終えたら風吹様と一時離れなくてはなりません」 「ならば一気に飲み干してさっさと出かけると良い。帰る場所はお前のマンションだ」 「風吹様、明日にも引っ越し業者から私の荷物が届くと思いますので、よろしくお願い致します」 「月末までの契約のお前のマンションはどうするつもりだ」 「勿体ないとお思いでしたら、お兄様がお使いになられれば?」 本当に負けていない。 どころか、勢いではあの探偵に勝っている気すらする。 すごいなぁ、詩子ちゃん。

ともだちにシェアしよう!