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42.素敵な受け様2
一階に下りてからも手を振る詩子ちゃんに階段の上から手を振り返して、軽く笑いながら事務所へ戻った。
探偵は、妹が部屋を出る直前と同じ、ムスッとした顔で足を組んで座っていた。
なんだろう、詩子ちゃんが僕にばかり話しかけてくるのが悔しいのかな、兄として。
なんだよ、なんだかんだで仲良しじゃないか。
「風吹」
「おっ!?…おう」
流し目つきで、突然下の名前を呼ばれて面食らう。
「ここに座り給え」
ぽん、と自分の座る隣を叩くから、素直に従った。
すると、探偵は軽く溜息。
「君は、誰にでも簡単に心を許すのだな」
「なっ…、お前なぁ、そう言うこと言うなら座んないぞ」
腰を上げると、お尻に違和感を感じる。
探偵が…腰を撫でまわしてる!?
「ひゃっ、この変態!」
「何を勝手に欲情している」
「してねーよばかっ!!」
「変な声を上げて、はしたない」
「はしたないとか言うな!つーか触んな!!」
「そんなことより一条君」
涙目で睨み上げると、探偵はスマートフォンを手にし、ひらひらと振って見せる。
それは白いケースの、
「…僕のスマホ」
慌ててパンツの後ろポケットを触った。
さっきまで確かに入っていた筈のスマホは、探偵の手の中にあり、探偵はそれを取るために尻ポケットを探ったのだと気づいたとき、───体中の血が一気に顔に駆け登った。
お尻撫でたわけじゃないじゃん探偵!
なのに、変態!って罵っちゃって…。
はしたない声とか欲情してるとか言われてもしょーがないじゃん僕っ。
「…勘違いして、悪かったな」
「いや、構わない。それより、そんな顔で見つめられたら、その気が無くとも皆君に誘惑されてしまうだろう。気を付けるのだな」
「……はっ!?」
「ただでさえこちらは理性を保つのでいっぱいいっぱいなんだ」
「……青山?僕、男だぞ?」
「奇遇だな、私も男だ」
そんなことより───と探偵は再度言って、スマホを僕に押しつけてくる。
「さっさと電話し給え」
「えっ?電話って、誰に?」
「中川高虎に決まっているだろう」
話が読めなくて、探偵の顔見上げると。
「……んぅっ」
僅かに開いていた口に指を押し込まれた。
「っ…なにすんだよ!」
「君こそ何をする。私の指を舐めただろう」
「舌で押し出したんだよばかっ!」
だから、お前は何がしたいんだよ一体!
「更科春子に連絡を取るより早いだろう」
「え…?春子さんに?」
「ああ。今から更科春子の所へ行く」
「犯人、分かったのか!?」
「だから、中川高虎に電話をしろと言っているのだ」
「うん!わかった、今…」
手にしたスマホを操作しようとして、漸く僕は大変なことを思い出す。
「探偵…」
タップしようと立てた人差し指で、探偵の腕を突く。
「高虎のケー番、知らない…」
探偵は額に手を当てると、それで親友とは、とでも言いたげにこちらを見て、いよいよ大きな溜め息を吐き出したのだった。
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