44 / 211

43.更科邸1

探偵が情報として持っていた高虎のスマートフォンの番号に連絡した。 探偵が、とは言えずに、家にお邪魔する約束だけを取り付けた。 知らないナンバーが僕からの電話だと分かった瞬間、機械を通した低い声が、少し柔らかくなった。 けれどおそらく高虎は気付いている。これが、僕を通した探偵からの連絡だってことに。 そして高虎は、僕たちを屋敷に招き入れた。 「風吹、春子様はこちらに」 木製の白い重厚な扉が開く。 テラスルーム、と言うのだろうか。 一面が、天井までもがガラス張りの明るい部屋は、観葉植物に囲まれていた。 ガラスの外には一本の大きな桜の木が、満開の花びらをはらはらと散らしている。 真ん中にガーデンテーブルがひとつ。 そこでは3人の女性が卓上に本を並べて談笑していた。 散る桜の花びらに、美しい3人の女性。まるで絵画のようだ。 詩集や花の写真集が似合いそうだ。 5~60代の女性が紅茶を注いでいる。纏め髪は一糸乱れず、清楚なナチュラルメイクに薄く紅を引いて。 顔色は余り良くは見えないけれど、小奇麗な人だなと感じた。 それにしても、いるところには本当にいるものなんだ。リアルなメイドさん。

ともだちにシェアしよう!