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52.情報収集能力1
「第一の被害者の父親は、八坂晋太郎。八坂氏は法制大学の自転車競技部出身だ。
同じように、2人目の被害者の父親、長司勇田は東都大学の自転車競技部出身。
3人目の久木秀五郎は明史大学の自転車競技部出身。これは警察でも調べはついていると思いますが」
「そうだね、更科重行が慶応出身。現在の東都六大学自転車競技連盟、4校の代表が奴らだってとこまでは聞いてるが」
「さて、右京裕介の死ですが、これは事故ではありますが、不作為───故意に見捨てられたことが直接的に死に繋がったとして、間違いないでしょう。
大会の後に、本人たちがそう話したのを聞いた方が何人もいらっしゃいました。
これは法律で裁かれることはありませんので、警察の方の前で申し上げても彼らの地位が揺らぐことはないでしょう」
「ホテル王、病院長、裁判官に、大手製薬会社取締役。これだけ揃えば事件をもみ消すことぐらい…」
「可能でしょうね。金の力と言うものも大きかったようです。当時警察が捜査をした際、彼らのことを口にするものはいなかったそうですから。
ご存知のように、八坂、長司、久木は昔からの家柄にして富豪。彼らに目を付けられることを危惧したのかも知れない。
ちなみに立卿大学OBの代表者は業界の御偉方、我が母校のOB代表者は外務省のエリート官僚。その力を使えば更に、隠ぺいは簡単になるのでしょう。
彼らに道徳心がなければ、の話ですが」
探偵がスピード飛ばして話したりするから、ついていけずに置いて行かれている。
それが僕の為だとは分かっているけれど、出来たら僕の為にもう少し掻い摘んで話してもらえたら…。
なんて言ったら絶対に鬼化するから、怖くて言いだせないけれど。
「例えばそれが殺人ならばまだ良かった。…いや、30年前ではもう時効か。
名波君、殺人罪の時効期間は廃止されたのだったね。しかし、改定以前に時効を迎えた件は…」
「時効成立したものを蒸し返すことはできない」
「結局、こうせねば気が済まなかったのだろうな…」
「だが、殺 られたのは本人じゃなく娘だろ、雪ちゃん」
「ええ。それは、連続殺人とすること、マスコミの目を向けること、最後に更科春子さんを殺害すること。3つの目的のために必要なことだったのでしょう。
と言っても、私は推理することは専門外なので、後で本人にでも聞いてください。
私は他人の心の内になど、興味がありませんので」
私の武器は情報収集能力なのだよ、一条君───
君は探偵のわりには現場にも行かず、ずっと事務所にいるよな。
探偵のデカい図体が掃除の邪魔になった時、厭味交じりに言ってやったことがあった。
嫌ってほど大きなため息を浴びせられて、君は探偵漫画が好きな小学生か、と罵られた。
足を使う捜査は警察に任せておけば良いのだ。
推理ショーが見たいのなら探偵小説や漫画の主人公に求め給え。
私は探偵だぞ。人を使い情報を集め、収集した事実を武器に持ち込まれた依頼をこなすのが私の仕事だ。
自分で動く必要など何処にある。
私の武器は情報収集能力なのだよ、一条君。
変な探偵だと思った。
だけど、探偵からしたら、推理ショーを繰り広げる主人公たちの方が滑稽且つ理解しがたい存在なのかもしれない。
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