57 / 211
56.最後の願いを2
「うわぁーーーっ!!」
───大きな叫び声が響いた。
菅原由実が床に伏したまま泣き叫んでいた。
お嬢様、お嬢様、と何度も繰り返す。
もう探偵は、その背を踏みつけてはいなかった。
「人の世に、未来永劫咲き誇る栄華などありはしないのです」
春子さんの声が、凛と響いた。
「貴女の為だけではありません。これは私の我儘です。もう、更科家の娘でいることに、疲れてしまいました」
正さんが、由実の元へ歩いていく。
「お前さん、どうすんだい?」
由実が、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。
解れ毛ひとつなく纏め上げていた髪も酷く乱れていて、初めに見た小綺麗なメイドさんの姿はそこにはもうない。
正さんは腰を落として、真正面から彼女と向かい合う。
彼女は春子さんを見て、彷徨わせた視線を僕で止めて、息を飲んでその口を両掌で覆った。
「…私が、3人を…殺しました…。彼を、刺しました……。ごめんなさい…ごめんなさい……」
涙混じりで聞き取りづらかった。
菅原由美は、正さんに、両手を差し出した。
「ああ……。おい、葵ちゃん。連続予告殺人犯、自首してきたよ」
「はい。捜査本部へ、連行します」
葵君は、複雑な顔をしていた。
「葵君、僕なら、平気…だから…」
振り返って、泣き出しそうな顔をする。綺麗な顔が、歪んでる。
「ちゃんと、お仕事、しなさい」
「風吹さん……。はい!」
葵君の震える手が頬に触れ、そして離れていく。
拳へと形を変えたそれを、きつく握りしめる。
がんばれ───
声には出さずにエールを送った。
優しい葵君には辛いかもしれないけれど……
がんばれ、名波管理官。
ともだちにシェアしよう!