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56.最後の願いを2

「うわぁーーーっ!!」 ───大きな叫び声が響いた。 菅原由実が床に伏したまま泣き叫んでいた。 お嬢様、お嬢様、と何度も繰り返す。 もう探偵は、その背を踏みつけてはいなかった。 「人の世に、未来永劫咲き誇る栄華などありはしないのです」 春子さんの声が、凛と響いた。 「貴女の為だけではありません。これは私の我儘です。もう、更科家の娘でいることに、疲れてしまいました」 正さんが、由実の元へ歩いていく。 「お前さん、どうすんだい?」 由実が、涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げる。 解れ毛ひとつなく纏め上げていた髪も酷く乱れていて、初めに見た小綺麗なメイドさんの姿はそこにはもうない。 正さんは腰を落として、真正面から彼女と向かい合う。 彼女は春子さんを見て、彷徨わせた視線を僕で止めて、息を飲んでその口を両掌で覆った。 「…私が、3人を…殺しました…。彼を、刺しました……。ごめんなさい…ごめんなさい……」 涙混じりで聞き取りづらかった。 菅原由美は、正さんに、両手を差し出した。 「ああ……。おい、葵ちゃん。連続予告殺人犯、自首してきたよ」 「はい。捜査本部へ、連行します」 葵君は、複雑な顔をしていた。 「葵君、僕なら、平気…だから…」 振り返って、泣き出しそうな顔をする。綺麗な顔が、歪んでる。 「ちゃんと、お仕事、しなさい」 「風吹さん……。はい!」 葵君の震える手が頬に触れ、そして離れていく。 拳へと形を変えたそれを、きつく握りしめる。 がんばれ─── 声には出さずにエールを送った。 優しい葵君には辛いかもしれないけれど…… がんばれ、名波管理官。

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