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60.事件のあとに3

「詩子、そろそろ話は済んだだろう」 詩子ちゃんがコーヒーを飲み干すのを確認して、探偵が口を開く。 「ここには怪我人がいるのだ。用事が終われば早々に立ち去るのだな」 穏やかだった詩子ちゃんの顔つきが一転、目は鋭く声音も一オクターブ下がり、お上品に掛けていた腰を半分浮かせ探偵に食い掛かる。 「んだとクソ兄貴!テッメェこそさっさと仕事場に行きやがれってんだ!」 相変わらず、この兄妹は仲が悪い。 それとも、一緒に住むようになって、これでも仲良くなった方だったりするのかな。 「当分の間事務所は休業だ。一条君(怪我人)の面倒を見ねばならないのでね。お前は部屋に戻り勉学に励め。ここは私達の愛の巣なのだからな」 お…おいおい、なんだ愛の巣……。 詩子ちゃんの顔、完全に引いてる……と言うか、物凄く兇悪になってるじゃないか。 「これから私達はディナーを頂くのだよ。風吹の邪魔をしたくなくば、とっとと出て行くよう」 「こら、雪光」 「千春お姉様がなんと仰ろうと……、私は探偵攻めなんか認めねぇからな!クソ馬鹿兄貴~~っっ!!」 妹相手にそんな言い方は良くないぞ、と叱るつもりだった。 詩子ちゃんが興奮をしているから声を荒立てないよう、なんて大人ぶった考えがいけなかったのだろうか。 彼女は探偵を酷く罵りながら、室外へ駆けだしていった。 「おまえなぁ……」 涼しい顔をしている探偵を睨みつける。 「可愛い妹いじめちゃダメだろ」 「何処が可愛いと言うのだ。君の方が百万倍可愛い」 「かわっ…いくねーよ!僕はいいんだよ僕は!」 「アレは言葉遣いも悪ければ口も悪い」 「そのギャップだって可愛いもんだろ。……まあ、時々お前みたいな兇悪な顔になるけど」 「私は兇悪な顔になどならないだろう?」 いや、……気付いてないって、凄いな…。 「そんなことより君は、いつ頃から料理が出来るようになるのだ。あの日以来まともな物を食していない所為で、私は栄養失調気味なのだよ」 「だーから、もう作れるって言ってるだろ」 「いや、まだ安静にしていた方がいい」 「だったらお前も、僕と一緒に下で買ったもの食べなさい」 「もう君の作った物以外では食べた気にならないんだと言っただろう。まさか忘れたのか?」 「いやいやいや。食べた気にならなくても良いから、ちゃんと食べなさい」 「君が怪我などするからいけないのだろう。私が責め苦を受けるところではない」 「責めないよ、責めないけど、ちゃんと食べないと体に悪いだろ。だからね、もう平気だから、僕がご飯作るから」 「はぁ……。まったく…、君も強情な男だ」 「えっ、うそっ、僕が強情なの!?」

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