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愛とか恋とか衝動とか。5

「蓮ちゃん。俺昼寝しないと塾の間持たないー。」 その日の放課後、教室でぼーっと今日は膝枕で昼寝をするという優を待っていると、教室に入ってきた優が口を尖らせそう言いながら俺の方へぱたぱたと歩いてきた。 「分かってるよ。でもさ、お前いつも枕あんじゃん。今日に限って膝枕って......何かあったの?」 「何も......ないよ。今日、枕のカバー洗濯中なんだよね。それだけ。」 優は顔を少し俯かせながら言う。しかし、その様子とは裏腹に膝に頭を乗せてきた時の顔はいつも以上に弾けていて、そしてなぜかケラケラと笑っている。 「ははっ。あはははっ。くすくす。」 優は俺の顔を見ながら笑い続ける。 「なんだよ。俺の顔に何かついてる?」 「ううん。あははっ。こうしてるとねえ、あったかくて、気持ちよくて、楽しいの。」 そうやって優は子供みたいに笑う。だから俺は、 「そーかそーか。お前子どもかよ。」 そう言いながら、目にかかっている前髪をはらってやった。すると、優の手が上に伸びてきて、首に重みを感じた。不意な重みに若干姿勢を崩すと、唇に少しべたつく、生暖かい、柔らかなものが触れるのを感じた。それが優の唇だと気付くまでに時間が少しかかった。静かに唇が離れると、俺の首に手を回した優が頬を赤らめてこちらを見ていた。 「ねえ、蓮、俺ずっとこうしていたい......蓮のこと好きだよ......」 少し眠たそうに、目の端に涙を溜めながらまっすぐ見つめてくる優に、俺は不覚にもドキッとしてしまった。 「な、何言ってんの?俺の事好きとか......ってか、びっくりすんじゃねえかよ。ふざけすぎ。」 突然のことに驚き窓の外を見ながらそう言うと、優は俺の首から手を放し、起こしていた体を倒してまた頭を膝に置いて、今度は頬に触れてきた。 「ふざけてなんかない。目、逸らさないでこっち見て。」 優の真剣な声のトーンに、俺は顔を下に向ける。多分、その時俺の顔は恥ずかしさやら妙な緊張やらで赤くなっていたと思う。 「お前、俺に何期待してる?この間まで俺の事大切な友達って言ってたよな?俺、正直分かんねえよ。俺は女しか恋愛対象として見たことないし、優の事は仲のいい幼馴染だってずっと思ってきた。それが突然キスされて、挙句告白された。俺はお前の事好きだし、お前の恋愛対象が男でも、全然気持ち悪いとか思わない。だけど、お前の気持ちに応えてやれるかどうかは分からない。」 そう言うと、少しの間があり優が話し出した。 「俺ね、ずっと蓮ちゃんのこと好きだったんだよ。ずっと。幼稚園の時から。蓮ちゃんて見た目も性格もきついけどさ、なんだかんだ優しくて。俺がいじめられてる時も守ってくれてさ。俺って守られてばっかりだけど、そういう強い蓮ちゃんがかっこよくて。笑いかけてくれる顔が優しくて。大好きなんだよ、全部。」 「そんなずっとだったのか......」 「うん......しかも、嫉妬とかもしちゃうんだ。嫌な奴だよね。今日加賀谷が膝枕してるの見て、凄くイラッとした。告白もこんな無理矢理になっちゃってさ。なんか、ほんと嫌な奴。」 苦笑いしながら優は俺を見る。その笑顔が悲しくて、苦しくて、俺は頬に触る優の手の上に自分の手を重ねた。 「嫌な奴なんかじゃねえよ。ただ俺の事好きになってくれただけだろ。」 「ねえ、蓮、もう一回キスしてもいいかな。」 優の直接的なセリフに驚いたが、正直嫌でもなかったのでいいよ、と小さく呟いた。すると、また優の唇が俺のそれに重なったが、それはさっきのよりも長く、何度も角度を変えては吸い付く、貪るようなキスだった。

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