9 / 21

後日談①-1

「蓮ちゃーん!」 「お前、でかい声でその呼び方するなって言ってるだろ。......っておい!やめろって!」 優がにこにこしながら腕に抱き着いてくる。俺は恥ずかしくて、でも優の力が強すぎて振り払うこともできず、ただ下を向いて赤面していた。 「あれー?蓮ちゃん顔真っ赤ー。どうしたのかなー?」 「う、うるせえ!早くどけよっ。」 覗き込んでくる優の顔を掴まれていない方の手で押しのけながら、顔を背ける。 「はいはい。蓮ちゃんはしょうがないなあ。恥ずかしがり屋さんなんだから。」 そう言うと優は腕から手を放し、教室に入っていく。教室では加賀谷と岡崎と秋川が昼飯を食べていた。 「おい。お前らも来いよ。」 岡崎が俺たちの方を見て言う。 「うん!ほら、蓮ちゃん!」 「わかったわかった。痛えよ。」 優に手を引かれながら三人の元へ行き、近場の椅子に座る。いちごジャムコッペを食べ始めると、優にパンを持っている手を掴まれた。 「ねえ、蓮ちゃん、それ俺にもちょうだい?」 お菓子を欲しがる子どもの様な目で俺の方を見ると、優は俺の手ごとパンを自分の口元に運び、口を大きく開けてかぶりついた。今までは特に気に留めなかったその行為も、優を恋人として、「好き」の対象として見るようになってからはただ気にするだけでなく、そのかじられたパンを食べることさえ躊躇ってしまうようになっていた。俺はそのパンの端に優の口が触れたと考えるだけで、体が熱を帯びていくのが分かった。普通は付き合い始めたらこういう事は平気になってしまうのだろうが、俺は優を親友や幼馴染としか見たことがなく、付き合う、それこそ直前まで好きという感情を持たなかった分今更気にしてしまうのだった。その歯形に噛み切られた部分には、キスなんかとはまた少し違う、妙な気恥ずかしさを感じた。 「わあ、おいしい!ねえ蓮ちゃん、それ、今度は俺にも買って?」 にかっと笑う優の顔を見て、そばに引き寄せて抱きしめたくなったけど、そんなことは当然できないのでただ机の下でぎゅっと手を握るだけにとどめて、「わかったよ。買ってやるよ。」と、心の中では、ただのジャムパンだけどな、と思いながら言った。 「あれまあお二人お熱いわねえ。」 幸せそうに笑う優と、頬をほんのり赤らめた俺の姿を見て、加賀谷がふざける。俺は加賀谷の発言に、加賀谷や秋川たち仲のいい友人達なら自分たちの関係を知っても受け入れてくれるのではないかと少し感じつつも戸惑い、苦し紛れに「馬鹿じゃねえの。」と言ってその場をごまかした。

ともだちにシェアしよう!