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第5話

 今日は昨日の雨が嘘みたいにいい天気だ。  ーーー季節はもうすぐ秋、時折吹く風の涼しさに夏の終わりを感じる。ーー  なんて、授業も聞かずに感傷に浸ってみたりして・・・  教授が哲学的思考がどーのこーので物事の心理がなんたらかんたらって難しい事言ってたから、俺もちょっと小難しく移り変わる季節について考えてみたけれど、俺の頭ではあんな陳腐言葉が精一杯で逆に自分が恥ずかしくなったじゃねーかよ・・・      単位に必須だから取ったけど、哲学とか興味ねーんだよな・・・!  教授の目が行き届く小さな教室で寝るワケにもいかず、なんとなく窓の外に視線を移した。  そこから、こんないい天気の日にツーリングしたら気持ちいいだろうな〜、次は北海道横断とかやってみてーな、なんて思っていると、あっという間に昼になっていた。 ・ ・  ガヤガヤ・・  学食で昼飯を食おうと、同じコースを先行しているダチの狭山と食堂に向かう。  狭山は黒縁メガネがトレードマークで、男らしくて整った顔をしているから女子からも人気がある。 「泉、試験持ち込み可の授業だからってぼーっとし過ぎだろ! 昨日の志保ちゃんとの事でも考えてたのかよ?」 「別にそんなんじゃねーよ。あ〜俺教科書持ち込んでも単位もらう自信ねーかも!」 「お前ってとことん理系脳だよな。だから彼女ができねーんだよ。」 「出来ないんじゃねーの!作らないんだよ!」 「へいへい。まあそんな怒んなって!それより今日の合コンだけど・・・」  こいつと俺は所謂合コン仲間ってヤツで、気が合うのは勿論だけど、 女の好みが被らねーからお互いに重宝しあってるってワケ。   「狭山、俺トイレ行ってくるから席とっといてくんね?」   「了解〜!」  昼時で混んだ食堂、早くしないと人気の定食がなくなっちまう。  席取りを狭山に任せて慌ててトイレに駆け込むと、入り口から出てきたヤツと思い切りぶつかってしまった。 「って!!」 「・・ッ!」  胸元に強い衝撃と同時にふわりと香る控えめな甘い香り。  覚えのある香りに相手を見ると、それは予想通り瀬戸だった。    「ッ、てぇ・・・なんだ、エロ深山かよ。前くらい見て歩けよ。   お前のそのデカイ目は飾りかよ。」  「はぁ?そのセリフ、そっくりお前に返すわ。てか、やめろよその呼び方。」  「ふん、真実だろ。変態。」  吐き捨てるようにそう言うと、スルリと俺の横を通り過ぎようとする瀬戸。    昨日は俺の腕の中であんなに感じてたくせにーー     俺は、無意識に瀬戸の腕を掴んで個室に押し込んでいた。 「ちょ、何だよ!離せっ!!!」  慌てて押し戻してくる瀬戸の腕を抑えて強く押し返すと、瀬戸が便器の蓋に尻もちをついた。そのまま後ろ手に鍵を閉めながら見下ろすと、下から俺を睨みつける瀬戸がいて・・・  あんなに感じやすい癖に、何でこの状況でこんなに気位が高いままでいられるんだよ。  どこまでも自分の思い通りにならない瀬戸に少し苛立ってしまう。   「ふーん・・いつまでそんな顔してられるかな・・」 「・・・・・・!」  ペロリと舌なめずりをしてニヤリと笑うと、瀬戸の表情が一気に固くなった。    あの瀬戸が、俺を意識して怖がっている・・・  そう思うと、何ともいえないゾクゾクした快感が背中を駆け抜けた。  慌てて立ち上がろうとする肩をグッと押して、耳元に口を寄せてフッと息を吹きかけると、途端に首元まで赤くなる。    息一つでこんなに感じるヤツなんて、今まで見たことねーんだけど・・・  大袈裟に感じる女たちを相手にしていると、こういう反応が新鮮でたまらなくなる。  「あっん、ハァ・・や、め ろバカ・・!」  赤く頬を染めてもまだ俺を睨む余裕のある瀬戸を見ていると、もっと追い詰めたいと思ってしまう。  誰が来るかも分からない、そもそも男同士だし、昼メシも食ってねーし・・  だけど・・・  そんな事よりも好奇心が上回って、俺は抵抗する瀬戸を力任せに押さえ込むと、 真っ赤になった耳にツーッと舌を這わせた。

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