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第30話
「じゃあ昼飯奢るんで行きましょ」
「あっ、おい!」
渋澤は掴んだ笹本の腕をそのまま引いて、強引に歩き出す。
「ちょっ、待って、勝手に決めるな!」
喚き散らす笹本を見て渋澤はにこりと笑った。
わかってる。
他人から見た今の自分は、仲の良い同僚とのやりとりの一端。
オフィスビルの風景の一部でしかない。
誰も笹本を助ける者はいなかった。
2人は笹本がいつも利用しているコンビニで弁当を買った。
渋澤が奢るというので、いつもより豪華にボリューム満点のチキン南蛮弁当にした。
豚汁もつけた。
先日の一件を思えばこんなの屁でもない筈。安いもんだ。
というかコンビニで済まそうだなんて図々しいにも程がある。
笹本はムカムカとしながら渋澤の会計が終わるのを待った。
その後は笹本馴染みの公園へ。
足は自然といつも座る端っこのベンチへと向かう。
そこで2人は腰を下ろした。
「こんなどこで飯食ってたんですか」
「どこで何を食べようと僕の勝手だろ」
「そりゃそうだけど……。ここ日当たり悪いっすね。さみぃ」
「嫌なら帰れ」
「いや、大丈夫です。笹本さんにくっつけば大丈夫」
渋澤が左寄りに座り直してパーソナルスペースをぐっと詰める。
「僕が大丈夫じゃないから」
と、笹本は同じ分だけ左へ尻をずらした。
「ひでぇ」
渋澤が肩を竦め諦めた様子でビニール袋から買ってきたチキン南蛮弁当と豚汁を取り出して、笹本の隣の空きスペースに置いた。
笹本はそれをじっと眺めていたが、沸々と沸き上がるのは、怒りと疑問。
頭のもやもやが一向に晴れず、ここ数日はずっとこんな感じだった。
けれど今はもやもやの原因が隣にいる。
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