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第41話

「映画見るの趣味なんだ。渋澤は休みの日、何してんの?」 「俺は仲間とコート借りてよくフットサルしてますね」 「へぇ。近場にそんなコートあるんだ」 「探せば割と。そうだ、笹本さんも今度一緒にどうですか」 「いや……僕運動苦手だし」 「確かに苦手そうっすね。逆に笹本さんがフットサルしてるところ見てみたいかも」 「苦手そうって。ほんとお前失礼だよね」 「ははっ」 何故だかわからないけれど会話を繋げなくてはと口を開く。 別に興味なんてないけれど、渋澤相手に間の悪い沈黙が訪れたらそれこそ気まずい。 それだけでなく、学生時代に味わったようなジャンル違いの友人達と過ごした賑々しいあの頃の自分を思い出し、準える真似事でもしたかったのだろうか。 笹本は自分自身を理解できないまま高級ハンバーガーで腹を満たし、不本意ながら饒舌には程遠いがいつもより軽やかな口調で、笹本らしくない一時を渋澤と過ごした。 この男が悪魔のような奴だということをすっかり忘れて。 その後2人は店を出て映画館へ向かった。 渋澤はいつもと変わりなく無遠慮な態度で飛行機が墜落事故を起こすパニック映画が見たいと言い張った。 笹本からすればどう考えても大して面白くもないB級映画だろうと予測できた。 しかしいつもの調子で渋澤のペースに巻き込まれ、あれよあれよとそれを見ることに。 タイトルは『クラッシュ フライト』。 笹本の予想通り、制御不能となってしまった飛行機が墜落するまでのカウントダウンを描いたパニック映画だった。 結末だけ言ってしまえば墜落は回避され、ハッピーエンドだったのだけど。 「あぁ面白かった~」 「そう?」 「いやまじで。俺が見た映画の中の歴代トップ3くらいには入る面白さでしたよ」 渋澤が腕を上げ体を伸ばしながら言った。

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