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第44話
端っこと決めつけられたことにムッとした。
何となく悔しい。
渋澤に図星を指され、いつもならば隅の角テーブルを陣取るところなのだが、今日はその手前に座ることにした。
何でも知ったような顔をする渋澤へのささやかな抵抗というやつだ。
席について早速メニューを捲る。
どのメニューもカクテルグラスいっぱいにフルーツが山のように盛り付けられていて、これだけで腹が膨れそうだと思った。
「すっげー。噂には聞いてたけどこれほどまでとは。笹本さん、果物何が好きなんすか?」
「えっと……メロンとかスイカとか」
「へぇ。ウリ系がすぎなんだ。覚えとこ」
渋澤はそう言ってへへっと笑った。
人の好きなフルーツを覚えて何になるんだ。
笹本はぎゅっと眉を寄せてメニューを睨み付けた。
「僕これにする。メロンでメロメロパンチカクテル」
「どこかで聞いたことあるようなネーミングですね。俺はこれ、太陽サンサン燃えるジューシーマンゴー」
「ぷっ」
バカバカしいネーミングに思わず吹き出す。
「あ、笑った」
そう言う渋澤もまた可笑しそうに頬を緩めていた。
こういう雰囲気は嫌いじゃない。
ここへ二度と来ることはないと思えば渋澤が相手でも多少は楽しもうという気になる。
2人はナッツとチーズ、スナックのつまみとカクテルを頼み、それらがテーブルに運ばれてきたところで笹本がマスクを外した。
メニューに載っている写真そのままのボリュームで運ばれてきたカクテルに、笹本も渋澤も絶句した。
「こ、これは……」
「乾杯したいけどそれどころじゃないですねこれ」
「乾杯不要。て言うかできないだろこれは。スゴすぎ」
カクテルグラスを覆い尽くさんばかりの大きくカットされたメロンがどどんとグラスを占領し、飾り程度にほんの少し剥かれた網目模様の皮がグラスの縁に引っ掛かけられて、中でしゅわしゅわと炭酸が弾ける。
アルコールは恐らく少量だ。
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