47 / 206

第47話

「あ、忘れてた」 不意討ちの小泉登場で気がいくらか動転していたのかもしれない。 笹本のメガネとマスクは最早顔の一部と化していて、絶対着けなければならないマストアイテムだというのに。 そんな大事な物を着け忘れてしまうなんて。 「はぁっ……」 不機嫌そうに渋澤が溜息を吐きながらレジカウンターへ向かう。 笹本は渋澤の不機嫌に気付くことなくマスクを装着した。 「笹本さんですよね、あ、やっぱりそうだ」 「……?」 笹本がいつものメガネにマスクの自分を取り戻したところで渋澤ではない誰かに名前を呼ばれ、声の方へと首を向ける。 そこには眩しいキラキラオーラを纏った小泉が立っていた。 何で?どうして? 笹本の心臓がどくんっと、未知の高鳴りをみせる。 小泉が自分に気付いて声を掛けてきたという事実が、笹本の内にある熱量をぐっと押し上げた。 しかし笹本は言葉を返せずマスクの下で口を開けたまま小泉を見上げるばかり。 「偶然ですね。1人ですか?」 「いや……渋澤と」 「あぁそうなんですね。休みの日まで一緒に遊ぶなんて随分仲がいいんですね。今度俺も仲間に入れてください」 「それじゃまた、お疲れ様です」と小泉はキラキラしたまま連れ合い達のもとへ戻って行った。 笹本はその後ろ姿をしばらく見詰めていた。 ─心臓が、どきどきしてる。 ぎゅっと左胸をパーカー越しに押さえた。 「笹本さん、会計終わりましたよ」 「あ、うん。ありがとう」 「小泉の奴と何話してたんですか」 「見てたのか。別に大した話じゃないよ。今度は僕達の中に小泉も加えてくれってさ」 渋澤はそれほど興味もなさそうに「ふーん」と呟き、やにわに笹本の手を掴んで歩き始めた。 「っ、何」 「別にー。さっさと出ましょう」 こうして笹本は渋澤に引き摺られるようにして、店を後にした。

ともだちにシェアしよう!