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第48話

渋澤は笹本の手を引っ張りながらずんずん歩いて行く。 どこへ向かっているのかもわからず、笹本とは違う長いコンパスで足早に歩く渋澤の様子はいつもと違う。 「ちょっと渋澤っ、どこ行くんだよ」 「ラブホっすよラブホ」 「はっ!?ら、ラブホ?」 どうして渋澤と一緒にそんな所へ行かなくてはならないのか。 渋澤の突拍子もない言動はいつも笹本を混乱させ、呆気に取られて適切な対処がすぐできない。 笹本の手を掴む力強い渋澤の手。 そんなの振りほどいて帰ればいいだけ。 それはわかっているのだが、いつもと様子の違う渋澤が気になって突き放すこともできない。 笹本には予測不能な渋澤をほったらかしにするなんてできなかった。 「笹本さん行ったことあります?」 「え、あ、いや……」 「童貞じゃないんですよね、だったら利用したことくらいありますよね」 「う……あぁ……」 本当は行ったことなど一度もない。 笹本は童貞を引き合いに出され、ただの見栄で「あぁ」と頷いてしまった。 「男同士でも入れるところ知ってるんですよ。そこ行きましょう」 「ちょっと……ちょっと待って。なんてラブホなんか行くの」 「何でって、友達付き合いするなら抜きっこくらい当たり前だって話しましたよね?童貞じゃない笹本さんなら、これくらい当たり前のことだって知ってる筈ですけど。もしかして……知りませんでした?童貞なんですか」 童貞じゃないのならば友人という関係で性欲処理をするのは当たり前。そしてそれをする為にラブホへ向かっている。 笹本の脳内が童貞という言葉に踊らされ、あらぬ方へと渋澤の言葉を肯定し理解し始めた。 「いや……」 「いいですよね行っても」 「え、う、うん」 こうなったら社会見学のつもりでラブホへ行くしかない。 それに少し興味がある。 生まれてから今日まで一度も女性と付き合ったことがないのだ。 後学のためにも行っておくべきだろう。

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