52 / 206
第52話
そんなところを見て可愛いと渋澤は言った。
改めて性の対象として見られていると認識し、嫌でも意識させられて、どうしたらいいのかわからなくなる。
笹本はピンクの液体が入ったボトルを胸元できゅっと握り、恐る恐る渋澤へ視線を向けた。
スーツを着ているとガリガリのひょろい奴と思っていたが、以外と筋肉がある。
確かに細いが無駄な贅肉のない体と表現した方が正しいのかと、嫉妬を覚えた。
─確かこいつフットサルやってるって言ってたよな。
それほど厚みはないけれど腿と脹脛に張り詰めた筋肉。細い足首。
視線を上にずらすと引き締まったウエスト。よく見ると割れた腹筋が表面にうっすらと浮き出ている。
笹本はそこまで確認してぱっと顔を元に戻した。
あまり運動をしない自分。インドアでなるべく日光を浴びたくない人間なので全体に色は生白く筋肉もあまりついていない。太っているわけではないが脂肪を摘める腹部。
自分の腹に目をやって、笹本は下腹と尻の辺りに力を入れて引き絞る。
─くそ、負けた……!
悔しいけれどスタイルは渋澤の方が数段上だ。
渋澤は部活漫画なんかでよく見る、細マッチョなモブに相当するだろう。
そんなことを考えていると「笹本さん」と名前を呼ばれた。
「え?」
「こっちこっち。ここどうぞ」
一方的な敗北感に浸っている間に渋澤は床に水色のマットを広げ腰を下ろしていた。
「このマットは……」
「えー、笹本さん使ったことないんですか?まるで童貞みたいだね」
渋澤の顔が意地悪くにやついた。
ここで童貞バレしたら今後ずっと絶対にイジられる。それだけは回避しなくてはと笹本の本能が信号を発した。
「いや、知ってる。知ってるとも」
暴かれる前に行動あるのみ。正直何につかうかよくわからないマットに誘われ、笹本はマットの上にうつ伏せで横になる。
「こうして寛ぐのもまたいいよね」
笹本がそう言うと渋澤はぱっと顔を背けて肩を揺らした。
ともだちにシェアしよう!