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第58話
2人は体を洗い流して、怠い体をバスタブに沈めた。
渋澤は笹本の手を引いて体が湯に浸かりきるまでその手を離さなかった。
「すげぇ泡ですね。これ笹本さん買おうと思ってたんですか?」
「欲しいと思ったんだけど泡の量とか威力がわからなかったから結局買わなかったんだ」
「じゃあここでしっかりお試ししてくださいね」
「言われなくてもやるっつーの」
こんなところでこのバブルバスのお試しができるなんて想定外だ。状況が異常だけれどしっかりと使用感を確かめておこうと思った。泡の大きさ、強弱を3段階で調整でき、本格的に湧いてくる泡はなかなかのものだった。
やっぱり1台家に欲しいなと思いながら体を丸めて浸かっていると、いつの間にか渋澤に背後を取られ、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
まるで恋人同士がするみたいな抱擁。どくっと心臓が嫌な音を立てたので、笹本は更に体を丸く縮めた。
「お前、何なんだよ。僕のことバカにしてるんだろ。いくらなんでも友達同士であんなことはしないって僕でもわかるよ」
「あー、バレました?でもするんですよ、友達同士でもこういうこと」
「しないよ」
「するんですって」
「嘘だ……」
取り敢えず渋澤に騙されてセックスの真似事をしてしまったということは何となく理解した。
どうしてこんなことになってしまったのかは後できちんと確認しなくてはいけないと思う。
渋澤はきっと自分のことが好きだ。
笹本は半信半疑でそう感じ、この先どういう付き合いをしていけばいいのかと考えるだけで頭が痛くなりそうだ。
笹本がはぁっと溜息を吐くと渋澤が声のトーンを低くして口を開いた。
「笹本さんて、小泉に気がありますよね」
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