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第59話

突如出てきた小泉の名前に笹本は首を傾げる。 「何で?前にも言ったけど、僕は男を恋愛対象として見たことは一度もないよ」 「じゃあ今こうして俺とこんなことしちゃってるのは何で?」 「何でって……」 改めて自分の状態を確認すると背後から渋澤に抱かれている形で湯に浸かっているわけだが、確かに男同士でこんなの普通あり得ない。 だが決して自分が望んでこうなった訳ではないし、性欲処理と恋愛は別ものだと思う。 まともな恋愛経験は生まれてこの方一切なしだが、どんなものかは小説や映画などで学んできたつもりだ。 どきどき胸が高鳴って、きゅんとして、その人のことを考えると居てもたってもいられなくなり夜も眠れない。それほど相手のことで頭も心も一杯になるのが恋なのだという認識はある。 しかし渋澤と恋愛がしたいだなんて全く思わない。 ただセックスの真似事は気持ちよかったし、色々驚きはしたけれど生理的な嫌悪も感じなかった。 これはどう説明したらいいのだろう。 「自分で気付いていないだけで、男と恋愛できますよ笹本さん。恋愛は女と、性欲処理は男と、っていう特殊な奴もたまにいるけど笹本さんは多分違う。俺と一日過ごしてみてどうでした?」 「どうって……普通だよ」 「普通……」 ……嘘だ。本当は普通というより楽しかった。 つまらない映画も、街中をぶらぶらしたことも。 でもここでそれを認めてしまったら渋澤を勘違いさせてしまうだろうし、何だか悔しいので絶対に言わない。 「俺なりの推論ですけど、普通は男と映画見て買い物してラブホでエロいことなんかしないんです。笹本さんは男同士触れ合う基準がそもそもボーダーレスで、今のところ俺とはこういうことができるけれど恋愛したい相手は小泉みたいに華やかなイケメンなんだと思います」

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