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第62話
旅行先は会社が有する研修所のある温泉地。
社員の50%が参加すれば費用は経費で計上できるということで、参加人員の確保もしなければならないし、それぞれ部署毎の研修を兼ねた社員同士の親睦を目的としている旅行なので自由行動の時間も含めたタイムスケジュールを練らなくてはならない。
─過去の資料を漁って参考にするか。
とは言え、何にしても責任重大。
この旅行プラン練ったの誰だよってことにならないように気を付けなければ。
久し振りに面倒な仕事を言い渡されて、旅行のことで頭をいっぱいにしながらトイレで用を足し、給湯室でコーヒーを淹れた。
笹本は少しだけマスクをずらし、ふわっと広がったコーヒーの香りを吸い込んだ。
淹れたてのドリップコーヒー。
フレッシュなコーヒーの香りが鼻腔を柔らかくくすぐり、ゆっくりと気持ちも解れていく。
─いい香り。飲むのもったいないくらいだな。
旅行のことを頭から追いやりしばらくコーヒーの香りに癒されていると、後ろから声を掛けられた。
「すごくいい香りですね」
「小泉」
「コーヒーの香りに釣られて来ちゃいました。俺もコーヒー淹れようかな」
小泉が笹本を見てにっこり笑う。
笹本の目にはそんな小泉の笑顔がひどく眩しく写った。
─キラキラしてんなぁ……。
小泉は笹本の視線に気付くことなく棚の中をキョロキョロと覗き混んでいる。
もしかしてコーヒーの置き場所がわからないのだろうか。
「小泉、僕が淹れてやろうか?」
「いいんですか、すみません」
「いいよ別にお湯入れるだけだもの。コーヒー淹れるの嫌いじゃないし」
笹本は手際よく紙のカップにドリップパックをセットしてポットの湯を注ぐ。
コーヒーがカップに落ちる間に、スティックシュガーとポーションミルク、マドラーを準備してあげた。
「ああ、そこに置いてあったんですね」
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