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第63話

小泉はふわっと柔らかく微笑んで笹本の淹れたコーヒーを手に取った。 「いただきます」 笹本の目が、小泉の手を、顔を、仕草を追う。 節ばった大きな手。 目鼻立ちがはっきりしていて、笑うときりりとした口元から真っ白な歯が溢れる。 ─眩しすぎて直視できない……! 笹本はぱっと視線を逸らした。 不自然な笹本の視線に気付いたのか、小泉が笹本に目を向ける。 「そういえば、この間フルーツカクテルの店で会いましたね」 「あ、あぁ、うん」 笹本は瞬時にあの時のことを思い出した。 パリピグループの中に小泉が居たことを。 「あぁいうの好きなんですか?」 「いや僕は別に。渋澤が行きたいって言うから付き合っただけで」 「へぇ。渋澤さんとは社内だけじゃなくプライベートでも仲良しなんですね」 「いや、それほどでも……」 プライベートはそれどころじゃなく、セックスの真似事までしてしまった仲だ。 しかしその関係を説明するわけにもいかず笹本は言葉を濁す。 「いいなぁ。そうだ、お邪魔じゃなければ今度俺も入れてください」 「え?」 入れる?挿れる? ぱっと笹本の頭に渋澤と致したふしだらな事の記憶が甦る。 「人事の先輩方とも仲良くしたいんだけどなかなか難しくて。もう少し歳が近ければ話も合うと思うんですけど、歳の近い人、同じフロアだと多分笹本さんとか渋澤さんしかいないんじゃないかなって。俺、他部署ですけどプライベートで遊ぶ時誘ってもらえませんか」 「あ、あぁ、そういうことね」 勘違いも甚だしい。 急激に恥ずかしさが押し寄せて、笹本は脳内に展開してしまった渋澤とのイヤらしい思い出をパタンと一気に折り畳んだ。

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