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第64話

「じゃあそういう機会があれば声掛けるよ」 「やった。ありがとうございます。後で連絡先交換してください」 「うん……」 何気なく小泉と交流を持ってしまったが、なぜか心臓がばくばく言っている。 ─イケメン、恐ろしや……! 経験したことのない謎の動悸だ。 「笹本さんて花粉症か何かですか?」 「違うけど……?」 「いつもマスクしてるから何でかなぁって。折角の可愛い顔が隠れちゃってるから」 「かっ、かっ……」 笹本は小泉の台詞に口をパクパクさせた。 ─かわいい……可愛い…………!? 渋澤じゃあるまいし、小泉まで何とち狂ったことを言っているのだろう。 有り得ない。親、そして渋澤、小泉。 笹本は自分を可愛いと言った歴代の人物を頭の中で並べ始めた。 親はまだわかる。バカでも不細工でも、子を可愛いと言うのは親ならば当たり前だ。 渋澤はショタ風成人男性がタイプだと言った趣味の悪いゲイ。 じゃあ小泉は? 何の意図があってそんなことを? 「あ、すみません。先輩に可愛いだなんて失礼でしたよね」 「いや、別にいいけど……」 その日から小泉は笹本の周辺によく現れ、声を掛けてくるようになった。 小泉の姿を見掛ける度に笹本の瞳孔が開き、謎の動悸に苛まれ、やがて気付いた。 もしかして、これが恋なんじゃないかと。 渋澤が指摘したように、男を恋愛対象とする素質が元々あったのかもしれない。 しかしそれを確認する術を持たない笹本は、只々悶々とするばかりだった。 それと同時に気が付いた。 小泉は何故自分を構うのか。 どこにいても影の薄い空気のように目立たない自分のような存在に、何故? 渋澤ならば同じ部類のモブ属性だから、自分に絡んでくるのはまだ理解できる。 しかし小泉は遠くにいても笹本を認識し、大きく手を振って見せたりするのだ。 それが笹本には不思議でならなかった。

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