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第65話
小泉の目に自分はどんな風に映っているのだろう。
そう考えずにはいられなかった。
渋澤の事は日曜の一件以来、ケンカ別れしたきりで会社では目を合わさず行動もバッティングしないよう最善の注意を払って避け続けていた。
避けること5日。同じフロア内で遭遇しないという奇跡はそう長く続く筈もなく、図らずもトイレでばったり会ってしまった。
「あ」
「……」
げ……と思ったが笹本はトイレから出るところだったので無視して通りすぎようとしたところ、擦れ違い様腕を掴まれそのまま中へ引き戻された。
「なんだよ!」
「ちょっと騒がないで笹本さん。喧嘩でもしてると思われたら面倒だから」
それは最もだけれど、渋澤に諭されると腹が立つ。
「……何」
「えっとー、日曜日はすいませんでした!全面的に?俺が悪かったような気もします」
「何なのその謝り方。100パーお前が悪いんだろ。僕のこと騙してあんなこと……」
「まぁそうですね。俺が悪いんです。すいません」
「で何?」
絶対こいつは反省していない。笹本は渋澤をぎろりと睨みつけた。
もう絶対騙されないぞと念を込めた視線だ。
「今日仕事帰りに一杯行きません?結局この間は笹本さんホテルに万札置いて行っちゃったし、そのお返しがしたいっていうか。俺奢りますんで」
「ホ、ホテルとか言うな!」
誰もいないトイレの中で笹本がきょろきょろしながら言った。
ホテルに2人で行ったことが周りに知れてしまったら、絶対誤解されるだろう。
それだけはどうしても避けたい。
「んじゃあ、何て言えばいいんですか。お宿?宿泊施設?」
「言い方の問題じゃないからっ!もう黙って!」
どうしてこうも渋澤との話しはちぐはぐになってしまうんだろうか。
絶対わざとだ。渋澤は自分をからかってバカにして楽しんでいるのだ。
「怒った顔も可愛いな。あぁもうどうしたらいいのかわかんねぇ。好きなんですけど……」
「し、知らないよ……そんなこと……」
ふいに渋澤がしゅんと落ち込んだ表情を見せる。
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