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第67話
そんなことになったらそれこそ大変だ。
笹本は自分の体裁を守るため、そこで抵抗するのを諦めた。
─おでんを食べりゃいいんだろ。財布の心配しなくていいならこれでもかってくらいたらふく食ってやろうじゃないか。
「おでん食うだけだからな……」
「そうこなくちゃ」
ぼそっと笹本が返事をしたその瞬間、渋澤に抱きしめられたままの状態で、トイレのドアがギィッと軋む音を立てながら開いた。
「こ……小泉」
その先に現れたのはキラキラとフレッシュなオーラ全開で用を足しに来た小泉だった。
「あ……」
小泉は抱き合う2人を交互に見て爽やかな笑顔を浮かべながら「お疲れ様です」と個室の中へ入って行く。
どうしよう。抱き合っているこの異様な現場を目撃されてしまった。
焦る笹本は助けを求めるように渋澤を見上げる。すると何故かぽんぽんと頭に柔く手を置かれた。
「おでん食べて、酒飲んで忘れましょう」
「は!?お前ほんと無責任な奴だな」
「責任なら末永く取る覚悟です」
「ばかっ、僕はそんなこと聞いてない!っていうか離してって。悪ふざけも大概にしろよ」
「しょうがないなぁ。じゃあ今日、仕事終わったら行きましょうね。約束ですよ」
「わかったから離せって」
こそこそとそんなやり取りの後、渋澤はやっと笹本の体を解放した。
軽く殺意を覚えおでんに毒でも盛ってやろうかとただならぬことを思い浮かべながらトイレを出ようとしたその時、個室の中から小泉の声がした。
「お二人でどこか行くんですか?」
笹本と渋澤はきょとんとしながら顔を見合わせる。
「えっ、あぁ、今日の仕事帰りにおでんを食べに行こうかって」
「俺も一緒に行っちゃだめですか?今トイレ出るんでちょっと待っててください」
「あぁ、うん」
返事をする笹本の隣で渋澤が思いっきり顔を顰めている。まるで漫画に出てくるやくざその1みたいだった。
その顔がおかしくて笹本はマスクの下で吹き出した。
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