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第69話
それから数時間後、笹本、渋澤、小泉の3人は定時きっかりに仕事を終えた。
待ち合わせ場所は会社玄関の外だ。
梅雨の時期にさしかかり、この日の天気は雨だった。
それでも外に出れば室内の明るさに慣れた目には眩し過ぎるほどの自然光が飛び込んでくる。
笹本は外に出た瞬間、その明るさに目を細めた。
「お疲れ様です!」
会社を出てすぐの所に傘を差した小泉が居た。
自然光よりもある意味眩しい小泉が。
「お疲れ様」
笹本は何でもないような顔で返事をしながらビニール傘をぱっと広げる。
傘を広げていただけなのにおかしな動きをしてしまったような気がして、その後一歩、二歩と歩く動作もどぎまぎとぎこちなくなり心拍数がどどっと上あがった。
こいつは会社の後輩だぞ!といくら自分自身に言い聞かせても、心臓は激しく鼓動する。
死んじゃうんじゃないかと思うくらいだった。
そこへ渋澤が「お疲れっす」と現れて、笹本の心臓が落ち着きを取り戻す。
漠然と渋澤の登場に安堵した。
─渋澤と違って小泉といると緊張するんだよな……。
「じゃあ行きましょー。あ、そうだ。笹本さん、今日のところは割り勘で」
そう言って一足先に渋澤が歩き始めた。
その後ろから笹本と小泉が横に並んでついて行く。
「あぁ」
笹本は渋澤が自分に奢ると言ったことを思い出した。
確かに一人増えたわけだから渋澤の負担も大きくなるだけだし、それに奢られる理由だってない。
割り勘、それでいいと思った。
しかし─。
「給料日前だけど、小泉は大丈夫?」
「はい。そんなにバカ高いおでん屋とかじゃないですよね」
「高級おでんの店?そんなの聞いたことないよ」
笹本がふふっと笑った。
「あ、笑った。可笑しいですか」
そう言って小泉もふふっと笑う。
直後、チッと渋澤が舌打ちする音が聞こえた。
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