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第71話

「譲歩?ほんとにその気があるなら、マスクと伊達眼鏡外して上目使いで「もう怒ってない?」ってもう一度言ってくださいよ」 渋澤はふてぶてしい態度でそう言い放った。 なぜ?どうして?訳がわからず疑問符がぐるぐると頭の中を飛び回ったが、そういえば、こいつはショタ風成人男性が好きなんだったと思い出す。 「その要求飲んでもいいけど、お前の態度、本当に改めろよな」 「はいはい。とりあえずこっちはテンションダダ下がりなんですよ。上手い肴でもなきゃやってられないっすね」 「僕を肴呼ばわりするのか……」 「俺にとっちゃ極上の肴ですよ。あ、すんませーん。先に生三つ」 「小泉、生でよかった?」 渋澤が勝手な事を言って勝手に生ビールを頼む。 きょとんとした表情で笹本と渋澤を見ていた小泉は、「はい」と微笑んだ。 「お二人ほんと仲がいいんですね。絶妙なコンビネーションって感じの会話、羨ましいです」 「……そ、そうかな」 ─そんな訳ないだろーっ! もう一人の自分が小泉に脳内でツッコむが、渋澤は先刻とは打って変わってにやつき始めた。 こっちだってテンションダダ下がりだ……! 「それに俺も笹本さんの素顔が見たいなってずっと思ってたんですよね。四月の歓迎会で笹本さんがマスク外したところ偶然目撃しちゃいましたけど、あれからなんだかずっと気になっちゃって」 「気になった?」 「はい。その……、マスクを外した笹本さんの顔が」 「そっか。小泉は一度見てるんだよな。だったら別にいいか。普段は顔隠しっぱなしだから、知ってる人の前で素顔を晒すのがちょっと苦手で……。それに子供っぽい自分の顔が好きじゃなくて。まぁいいや」 とりあえず渋澤のご機嫌とりで笹本が眼鏡とマスクを取り払う。

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