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第72話

「別に至って普通……というより目立たない地味顔だし、見たっておもしろくないだろうけど」 笹本が外した眼鏡をテーブルに置くと渋澤と小泉の視線を痛いくらいに感じ、その気恥ずかしさに俯いた。 「いや……、あの地味とかそういうんじゃなくて、何て言ったらいいのかな。奥ゆかしい感じというか、俺はいいと思います!」 「そうかな、はは、ありがとう」 小泉が気を使ってフォローしてくれたのだろう。奥ゆかしいなんて形容されたのは初めてだった。 本来は慎み深い女性に使う言葉じゃないのか?とも思ったが、単なる地味顔を誉めるのは容易なことではないだろう。気を使ってもらえただけでも良いではないか。 笹本が一人納得していると渋澤が口を挟む。 「それは違うだろ小泉」 「え?」 「地味な子供顔だけどそこがめちゃくちゃ可愛くて好みですってはっきり言えば?」 「いや俺は別にそんなつもりじゃ……」 「じゃあどんなつもりだよ。本当は笹本さんと二人でここ来て、口説き落とそうと思ってたんだけど、そういうつもりじゃないなら邪魔すんなよな」 「渋澤!やめろよ。そんな変態はお前だけだよ。小泉にそんな気ある筈ないんだから絡むなよ」 ただおでんを食べて酒を飲み、歳の近い者同士親睦を深めるというつもりで小泉は同席している筈だ。 それなのに変態渋澤のせいで交わす会話の内容がどうにもおかしい。 これじゃ小泉が可哀想じゃないか。 「ってことは、お二人は付き合ってないんですよね」 「付き合ってないけど……」 渋澤なんかと付き合う筈がない。そもそも自分は男と恋愛したいわけじゃないのだから。 そう思って笹本がぼそりと返答を返した。すると小泉が体を笹本に向けて真横にし座り直した。 「え、何……?」 「そこに俺の入る余地はありますか?」 「え?」 笹本の思考が停止した。

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