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第74話

立て続けにジョッキ二杯分を空っぽの胃に流し込み、かぁっとアルコールの熱が腹へ染み渡る。 笹本の頬は既に仄かなピンクに上気していた。 「笹本さん飲む前になんか食べた方がいいよ」 「俺もそう思います」 そう言って渋澤が適当におでんの具やつまみを適当に頼み出す。 その横で笹本は更なる生ビールをおかわりし、程よい酔い加減に目をとろんとさせている。 テーブルを挟んで渋澤と小泉がメニューを覗きながら雑談している様子をただぼうっと見詰め、傍観している居心地の良さを実感していた。 「それにしても笹本さんはどうしてこんな伊達眼鏡を?大きなマスクまで。俺は笹本さんの顔好きですけどね」 流石に自分を話しのネタにされて傍観しているわけにもいかず小泉の話に耳を傾けた。 自分の顔が好きだなんて物好きにも程がある。 渋澤だって自分を可愛い、可愛いって……。 事故のようなアレコレを急に思い出し笹本は耳まで赤くした。 「可愛くないし……。年上に向かって可愛いっていうのは、失礼だと思わないの?小泉くんは」 「俺今可愛いって言いましたっけ?」 「言った……!言っただろ!」 「いや俺は好きですって言ったつもりなんですが……。もしかして笹本さんもう酔っぱらったんですか?……あのー渋澤さん、笹本さん酔っぱらうとどうなるんですか」 「それはもう、めちゃくちゃ緩くなるし、可愛いよ」 「めちゃくちゃ緩く……」 小泉の喉がコクリと上下するのが見えた。 その様子を見て渋澤が切り込んだ。 「小泉は一体何なの?この間フルーツカクテルの店でばったり会った時は可愛い女の子達と一緒だっただろ。お前もゲイなの?」 「俺は性別関係なく好きになったりしますけど、歓迎会の時に見た笹本さんの顔が忘れられなくて……」 「ほう。笹本さんの子供顔の良さがわかるか。笹本さんの見た目、中学生くらいから成長してないみたいに見えるよな」 「何となくわかります。でもあの時の笹本さんはいつもより色っぽかったっていうか」

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