75 / 206
第75話
「色っぽい……?そんな訳あるかっ!」
笹本がぎゅっと眉間にしわを寄せ、またビールをぐいっと呷る。
渋澤にトイレの個室でキスをされ、色っぽい顔になるなどは以ての外で、あの時の自分は間違いなく今にも吐きそうな顔でもしていたんじゃないだろうか。
そのどこをどうとったら色っぽい顔に見えるんだ。
「そりゃしょうがないよ。俺達あの時、トイレの個室でキスしてたんだもん。ねぇ笹本さん」
「え!ずるい!」
「ぶっ……!」
─コイツ何をばらしているんだ!
笹本は堪らず呷ったビールをぶっと噴き出した。
「わ、笹本さん、大丈夫ですか」
笹本の噴いたビールが胸元を濡らす。大丈夫じゃないし、小泉の「ずるい」という台詞に耳を疑った。
小泉はテーブル上からおしぼりを取り、笹本の胸元をポンポンと押さえる。
ポンポン、ポンポン。
「落ちませんね。染みになるかも……」
小泉はそう言ってポンポン繰り返す。
ポンポン、ポンポン。
笹本はもう充分だろうと思いながら小泉の手の動きを目で追った。
しかし小泉はポンポンと動かす手を止めず、時折ごしごしと擦る動作を交えながら首を傾げている。
「……?もういいよ小泉」
「いやでも、なんかここだけ少し色が濃くて。それにちょっと出っ張ってるし何だろうなって思って」
「小泉、お前確信犯かよ。それ笹本さんの乳首だろ」
「え!あ、すみません!」
「……」
笹本が胸元をじっと見ると、確かにビールで濡れたワイシャツの胸元が透けて見えている。
しかも若干色まで透けて尖った小さな粒の形はくっきりと浮いていた。
─信じられない。
笹本は思わず女みたいに両手で自分の両胸を押さえた。
男が隠す必要など本来はない筈なのに手が自然とそこを庇う。
渋澤だけじゃなく小泉も本当に自分をそういう目で見ているのだろうか……?
そう考えたら急激にばくばくと心臓が大きく鼓動し、酔いが冷めたのならば良かったのだが、一気に回り始めた。
ともだちにシェアしよう!