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第77話

そんなことこれっぽっちも望んでいないからだ。 相手が渋澤だろうが、例え小泉だろうがそれは変わらない。 小泉を見るとドキドキしてしまってもだ。 笹本が俯いて黙っていると、渋澤の注文したおでん料理が次々とテーブルに運ばれて、笹本の目の前にあった空のジョッキがこんもりと泡の乗った注いだばかりのビールと交換された。 笹本は待ち侘びていたようにジョッキに手を伸ばし、直ぐ様ぐいっと呷った。 「それ何杯目?」 「5杯目ですね」 笹本は一気に半分飲み終えて、ジョッキをテーブルにズダン!と置いた。 「ぷはっ……!何杯目だっていいだろ別に!はっきり言わせてもらうけど、僕は君らみたいに男と恋愛する趣味はない!」 「そうはっきり言われちゃうと無理強いはできないですね、はは」 小泉が思い切り言い放った笹本を見て困ったように笑っていた。 そんな顔をさせたい訳じゃなかった。小泉の様子に胸が少し痛む。 ゲイを差別するつもりはないし、否定して彼らを傷つけたい訳でもない。 しかしこれくらいはっきり言ってやらなければ、恐らく彼らは引かないだろう。 そう思った故の心を鬼にして告げた言葉だった。 「じゃあ笹本さんはAV見るときどういうの見るんすか」 けれど、渋澤の心臓が強固な鉄だということすっかり失念していた。 「どういうのって……」 「例えば女子高生ものとか、巨乳、熟女、SMものが好きとか、そういうのないんですか」 「ばっ、ばか!こんなとこでそんな話しするなよ渋澤」 「誰も聞いてないから大丈夫ですって。同じこと小泉が言えば何人か振り向くと思うけど。だから小泉は黙っとけよ。つーかお前も笹本さんのオカズ事情興味あるだろ」 「えっ、あ、はい……まぁ」 釈然としない顔で小泉がビールを口にする。 「で、どうなんですか」

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