82 / 206

第82話

きっとまたそういう事をしてしまうんじゃないかと、そんな予感で顔も身体も熱くなる。 友達同士でそういうことをしたっておかしくないと教えてくれたのは渋澤だ。 それが真実なのか嘘なのか、本当のところは実はよくわからない。 自分が何をしようが小泉には関係ないだろうと思う反面、どうして渋澤とセックスの真似事なんかしてしまったのか吐露してしまいたい気持ちに駆られた。 火花を散らす2人に笹本はたじろぎながら口を挟んだ。 「……渋澤とは、友達として付き合ってるんだ。その延長線上に性欲処理があって。その、おまけみたいなもんだと、僕は思ってたから……」 暫く沈黙が続き、3人は目的地へ向かって黙々と足を進める。 例のホテルを目の前にして小泉が「笹本さん」と笹本の耳に囁きかけた。 「俺も笹本さんと友達になりたいな。笹本さん、だめですか」 「っ……」 耳にそっと吹き込まれた小泉の声。 ざわりとした感覚が笹本の背中に広がって思わず首を竦める。 ぱっと顔を向けると、小泉は整った男らしい顔を笹本へ真っ直ぐ向けていた。 小泉の視線が性的なニュアンスを含んでいると笹本の直感が物語ると同時に、心臓がどくんと大きな音を立てた。 「ダメですか?」 「いや……だめじゃないけど……」 悪人面の中身も悪人な渋澤とは友達なのに小泉を拒絶する理由が思い浮かばない。 「チッ。おい小泉。ここで口説くなよ。中でじっくり笹本さんに聞いてみようぜ」 笹本の反対隣では渋澤が不機嫌を隠すことなく舌打ちをし、後輩小泉を高圧的に黙らせようとしていた。 それに対して小泉は溜息で応える。 渋澤、小泉の双方が、思い通りに事が運ばず苛立っている。 笹本は険悪な雰囲気を感じ取り、どうしたらいいのかわからずに、ただ黙って連れられるがまま、例のホテルへ再び足を踏み入れることとなったのである。

ともだちにシェアしよう!