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第83話

慣れた様子で部屋を取る渋澤と何を考えているのかわからない小泉。 笹本は二人に腕を取られエレベータに乗って部屋へ向かう。 やっぱりこんなのおかしくないか?と、どんどん頭が冷えてきて足が進むにつれて腰が引けてくる。 「や、やっぱり僕、帰りたい」 「往生際悪いっすね。ここまで来たら男なんだからどんと構えて、先輩の器のでかさを見せてくださいよ」 「そんなもの僕にはないし見せられない」 「笹本さん大丈夫です。俺もいますから。笹本さんの嫌がることはしないと約束しますから」 「いや、ちょっと待って、もう僕イヤなんだけど」 「さ、202着きましたよ~」 嫌がることはしないと小泉は言ったがもう既にこの状況が嫌だった。 部屋へ入ると渋澤が強い力で笹本を投げるようにしてベッドの上へと押しやった。 「ひゃっ……!」 ガリヒョロのくせになんという腕力だ。 笹本は変な声を上げながらベッドの上に突っ伏した。 「渋澤さん乱暴はダメです。もっと優しく」 「うっせーな。お前がついてくるからこっちだって面白くねーんだよ」 「しょうがないじゃないですか。俺だって笹本さんと仲良くしたいんですから」 「仲良くってどんな仲を言ってんだよ小泉。どーせエロイことしか考えてねーんだろ」 「渋澤さんに言われたくないですね。少なくとも俺は渋澤さんより紳士的だと思いますけど」 「紳士的だぁ?紳士的なやつがエロイこと考えながら友達になりましょうだなんて言わねーよ」 「そういう渋澤さんはどうなんですか。それで正当に笹本さんを口説いてるとでも?」 笹本の目の前で渋澤と小泉が言い争いを繰り広げている。 この状況がもはや異常なわけだが、通常であればモブ属性笹本の得意とする、気の乗らない飲み会などでは誰にも見つからずに一抜け─という技を一発ここでぶちかましてやりたいところだが。

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