84 / 206
第84話
「チッ。ここで言い争ってても何も始まらねぇか。取り敢えず笹本さんにちゃんと自覚してもらわないと」
「自覚……そうですね。それは同感です」
「え、何?」
ベッドで膝をつく笹本に、渋澤と小泉が接近する。
ついさっきまで言い争いをしていた仲とは思えないほどシンクロした動き。
笹本は妙な圧迫感を覚え、何故かピシっと正座に座りなおした。
正座する笹本の両サイドをテレビリモコンを持った渋澤と小泉が座り、笹本の脇を固めた。
「これからエロビデオ鑑賞しまーす。俺の知ってる限りでは笹本さんは男にも勃起する。だけど笹本さんは違うって言い張るじゃないですか。だからここでそれを証明しようかと思いまーす」
ちょっと待て。笹本の頭が真っ白になった。
「はっ!?意味がわからない!なんでビデオ鑑賞でそんなことがわかるんだよ!こんなバカげたことやめよう!ねぇ小泉からも言ってくれよ!」
「や、まぁ……渋澤さんの言うことも一理あるかなって思います。笹本さんがちゃんと自覚して目覚めてくれたら俺も嬉しいので」
「小泉までそんな……」
「じゃあ笹本さんが男と女、どっちを見ているのかを俺たちがジャッジしたいと思いまーす」
「笹本さんすみません。俺はあまり気乗りしないんですけど、でもどっちなのかはっきりさせておきたいので」
「ぼっ、僕はそんなもの見ないからなっ!」
「はいはい」
─と、こうした下りがあって今に至る訳だが、笹本が現在見せられているのは男女ものの普通のAVだった。
こんなもので人の性癖を推し量れるものかと笹本は顔を背ける。
しかも両脇には会社の後輩。この状況下で勃起するやつなどいるものか。そう思っていたのに。
AVは義父×嫁ものらしく「お義父さん、お義父さん、あん、あんっ」と態とらしい演技とベタな喘ぎが部屋に響き、映像を見なくてもどんなものなのかは想像できた。
笹本は自分の知る限り性に対しては淡泊で、女性に対しては耐性そのものがない。
付き合ったことすらないのだから耐性がないのも当たり前だと開き直りさえしていた。
しかしこれはいくら何でもあり得ない。人を馬鹿にするにも程がある。
ともだちにシェアしよう!