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第87話
「やっ、だっ、だめですっ!!」
笹本は何故か反射的に敬語で返答し、潤んだ瞳を小泉に向けた。
すると小泉は「すいません」と、そっと手を引っ込める。
小泉も渋澤と同類だと思っていたが渋澤ほど強引ではなく、変態チックなところは一緒だが小泉の方はムッツリだ。
「ヘタレか」
「違います!笹本さんが嫌がってるので。俺は合意の上でじゃないとやりません」
『やりません』という小泉の言葉が妙に生々しい。
「へえ、紳士的アピールかよ。つうか笹本さん、そのままだとズボン汚すかもよ」
「汚さないよ!!」
自分自身をコントロールできないと言われているようで腹が立った。
第一外的刺激がなければ達しはしないし、スラックスが汚れる心配など必要ない。
「そうかな。笹本さんすぐ濡れるじゃん。シミになるんじゃないすかね」
「なっ……!」
「そうなんですか!?」
「知るか!」
もうまともに渋澤の相手をしてはだめだ。
こっちがムキになるほど予想を上回る返答を返してくるので対処しきれない。
小泉も鼻息を荒くして熱っぽい視線で笹本を見ている。
笹本を解放する気など、この二人にはないだろう。
この時点で笹本は抗うことをやめた。
諦めた笹本の体からふっと力が抜けて、あとは流されるのみとなった笹本を見て渋澤が微笑んだ。
「大丈夫。本当の自分を知るチャンスですよ」
次の瞬間、どうにでもなれとヤケクソになった笹本の目に、見たことのない映像が写り込んだ。
裸の男に裸の男が覆い被さり腰を振っている。
初めて見るが、これがゲイビデオというやつなのかと徐々に冷えていく頭で思った。
がたいのいい男と男がベッドの上で交わる姿は最早格闘技の様にも見え、体から急速に熱が引いていく。
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