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第88話
「ばかばかしい……」
笹本の冷ややかな声に渋澤と小泉がピタリと動きを止めた。
この一言に笹本の怒り、悲しみと呆れが詰まっているのがありありとわかる一言だった。
沈黙の中、獣のような男の喘ぎが部屋に響く。
こんなものに興奮するのは渋澤のような変態であって自分は決して違う。
腹が立ってそれどころではなかったのではなく、笹本は自分は違うのだとそう思いたかった。
「あれー……、絶対いけると思ったんだけどな」
「……笹本さん怒ってます……よね?……すいません」
「別に。それより僕、こんなくだらないことに付き合ってる暇はないんだよね。帰ってもいいかな」
こんなことに時間を費やすくらいなら部屋で一人、映画鑑賞でもしている方が100倍ましだ。
渋澤も小泉も、じっと無言で笹本を見詰めている。
自分の静かな怒りが二人に伝わったのだとこの時は思っていた。
そしてもう二度とこんなバカげたことはしない筈だと笹本は高を括っていた。
「腕、放して」
なかなか腕を放さない二人に痺れを切らし、笹本がウエストを捻り腕を振るった。
しかし逆に渋澤からぐっと力強く拘束される。
「それはだめです」
「なんで!?」
「俺達がどうしてこんなことまでして笹本さんの隠された部分を暴こうとしてるのかわかってますか?」
「し、知らないよそんなこと!僕をからかって遊んでるとしか思えない」
「それは違います!少なくとも俺は、笹本さんが好きだから!」
「好きだったら普通はこんなことしないだろう」
「……すいません。受け入れてもらえる可能性を確かめたかったんです」
渋澤はそう言って反対の手で目頭を押さえた。
─もしかして泣いてるのか?
先刻の渋澤とは様子が違う。
自分のせいで泣いてしまったのかと心配になり、笹本の怒りが少しずつ薄れていく。
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