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第89話
もしかして本当に自分を心配してくれていたのかと笹本の良心が痛みだす。
けれどそこまで心配されずとも、心身共に至って全くの正常だ。
「渋澤、僕何ともないよ。勃起もちゃんとするし、ね。色々考えてここまでしてくれたのは一応感謝するよ。ありがとう。だから今日はもうお開きにしよう?」
あの生意気で悪魔のような渋澤が泣く日がくるなど想定外以外の何者でもない。
それに加え、後輩を泣かせてしまったということに良心の呵責を感じてしまった。
笹本から顔を背けて目頭を押さえる渋澤と、戸惑いながらしゅんとする笹本、それを小泉が黙って見ている。
続く沈黙を破ったのは渋澤だった。
「ホントに俺、笹本さんのことが好きだから体のことが心配で……。普通のAVで勃起したのは喜ばしいことですけどちゃんと射精するところまで確かめないと、俺、心配で今夜は眠れそうにありません」
「え……?」
渋澤は一体何を言っているのか理解するまで数秒考えた。
つまりはここでしてみせろということか。
「俺、心配で心配で……」
顔を背けながら俯く渋澤が声を震わせる。
「渋澤……」
そうしなければこの場を納められないような雰囲気になり、笹本が顔を上げ「わかった」とそう言おうとした時、小泉の声がそれを遮った。
「笹本さん、騙されないでください」
「え……、っ」
小泉の声と同時に笹本の体がぐっと引かれ、拘束されていた腕はするりと抜けて今度は小泉の両腕の中にすぽっと収まる。
気付くと笹本は小泉にぎゅっと抱き寄せられていた。
「すいません、俺も不純な動機でここまで来てしまいましたが、渋澤さんはひど過ぎます。今まで笹本さんをこうやって騙していいようにしてきたんですか?そんな男の風上にも置けないそんなやり方許せない!これからは俺が笹本さんを守ります!」
「は……え……?」
一体何が起こったのか。
突然の展開に笹本の思考は全く追い付かなかった。
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