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秘密
人間誰しも秘密の一つや二つ、多かれ少なかれ抱えているものだ。
それを暴かれ恥ずかしい思いまでしたというのに、更にまた一つ、誰にも言えない秘密が増えた。
笹本が現在口外することのできないその一つが、他部署で働く後輩である渋澤、小泉との関係だ。
おでん屋からホテルへ向かったあの一件で渋澤だけでなく小泉もまた自分に性的欲求を向ける変態さんなのだとわかってしまった。
小泉は笹本のことを渋澤から守ると言い切った直後、「そういうのは俺にだけ見せてくださいね」と笹本の耳許で囁いたのだ。
ぞわりと鳥肌が立ったことを覚えている。
渋澤と小泉。見た目は悪人顔と好青年で真逆の二人だが、エロに対する基軸は同類。
渋澤はイヤらしさを隠すことなく押し出してくるが、小泉は影でこそこそとエロを仕掛けてくる爽やか好青年とは思えない二面性を持っている。
はっきり言って、笹本からすればどっちもごめんである。
小泉に抱き締められ耳元で囁かれた直後、笹本は小泉を押し退けてホテルから飛び出した。
もう、今後一切あの二人とは関わらないようにしよう。
そう固く決意したのだが。
「笹本さん」
「……なに」
「お昼一緒にどうですか」
「忙しくて食べる暇ないから」
無愛想にマスクをしたまま返事をする笹本と、にっこり微笑みながら周囲の女子社員達を魅了する小泉が微妙な空気を醸し出す。
なぜ小泉が笹本を?と、誰しもが思っているに違いない。
しかし笹本の態度は非常にそっけない。
すると笹本の隣に座る美咲がチッと舌打ちした。
「笹本のくせに後輩に懐かれてんだから、昼くらい連れてってあげなさいよ。あんたなんか慕う後輩の気がしれないけど、ここで小泉君を邪険にしたらあんたこのフロア内にいる女子社員全員から反感買うわよ!」
お局美咲は刺々しい小声で笹本を叱咤する。
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