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第91話

確かにこのままでは女子社員からの反感買うこと必至だし、それ以前に人目に晒されるのが苦痛。 しかもただの視線じゃなくて好奇の眼差し。 「そうですね。美咲さんの言う通りです……」 小泉のことは無視してやろうと思っていたがこの状況に自分が耐えられないということに気付き、笹本が椅子から立ち上がる。 笹本はさっと傘を持って廊下へ出た。 「待ってください笹本さん」 小泉が慌てて笹本の後を追う。 「どこ行くんすかー。俺も一緒させてくださいよ~」 その後ろから渋澤も遅れを取らずについてくる。 結局数秒後には笹本、渋澤、小泉、3人揃って同じエレベーターに乗り階下へ向かっていた。 「笹本さんどこで昼食うんですか」 「お前らのいないところだよっ」 エレベーターが1階に到着すると笹本は脇目も振らずに傘をぱっと広げて外へ飛び出した。 振り返らずにこのまま歩いてあの2人をどこかで撒いてやろうと、どんどん足早に歩いて行く。 しかし笹本の後ろから雨音を含んだ足音が止まることなくついてきて、後ろからあの2人がずっと自分の後ろを歩いてきているのだと想像できた。 100メートルほど歩いたところで笹本が足を止めた。 そういえばあの2人、傘を持っていただろうか。 「……」 自分のせいで雨に濡れたと社内で噂になっても困るし、風邪を引かれても困る。 小泉に至っては誰のせいで雨に濡れ風邪を引いたのかと女子社員に恨まれる自分の末路が見える。 そんなのごめんだと、笹本が振り返る。 そこには笹本が想像した通り、雨に濡れた渋澤と小泉がいた。 「ばっ、ばか!お前ら何してんだよ!風邪引くだろ!」 思わず笹本が声を上げた。 すると渋澤と小泉が笹本に向けて勢いよく頭を下げた。 「昨日はすいませんでした」 「すいませんでした……」

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