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第92話

小泉が頭を下げているのはまだいいとして、渋澤が頭を下げてすいませんと言っているこの状態。 笹本の中で既視感が膨れ上がる。 ここでこいつを許したらまた同じことが繰り返されるのではと不信感が拭えない。 しかし今は同僚である後輩を先輩として導かなければという使命感の方が強かった。 風邪を引かせてはいけない。これ以上自分のことで悩ませてはいけない。 「今はそれどころじゃないだろ。もうっ、……そこのファミレス入るぞ」 3人は徐々に強まる雨を避けるため、目の前のファミレスへ駆け込んだ。 渋澤も小泉もしゅんとした様子で案内された窓際の席に座り、笹本は2人の正面に座った。 あまり時間もなかったので3人揃って日替わりランチを注文した。 「雨降ってるの見ればわかるよね?なんで傘も持たずに僕を追いかけてきたの」 溜息交じりに呆れた口調で笹本が口を開く。 先に応えたのは小泉だった。 「どうしても昨日のことを謝りたくて。本当にすみませんでした」 「渋澤は?」 「俺は……小泉に先を越されたくなくて」 悪いことをしたとは思っていないのかと、笹本が手元にあったお絞りをぎゅっと握り込む。 「どういうこと?」 「俺、笹本さんが思ってるよりも、笹本さんのこと好きなんですよ。必至になり過ぎてやる事やる事全部裏目に出ちゃってますけど。でもほんとにすげぇ好きで……」 そこまで言って渋澤が項垂れる。どうして自分なんかをそんなに?と思うと同時に周囲の目が気になった。 まさかこんなところで告白されているとは思わないにしても、傍から見れば落ち込む同僚を口うるさく諭しているようにも見えるだろう。 それに小泉ファンの女子社員にこんな場面を見られたらと思うと堪ったもんじゃない。 「わ、わかった。取り敢えずこの話しはまた今度にしよう。今はお昼をちゃんと食べて午後に備えよう!」 「今度?いつですか?俺も同席させてください」 不機嫌そうな小泉の声へ目を向けると、案の定小泉はむすっとした顔をしていた。

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