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第93話
いつかと問われても具体的など日時を出すつもりはなかった。
渋澤はこうして項垂れ、いかにも反省してますアピールで笹本の警戒を解いておきながら再び同じ事を実際繰り返している。
これではいくら好きだと告白されたところで、何を信じればいいのかもうわからない。
それに小泉も。
まさかこんな見た目の良い男が、自分のような脇役的存在に目をかけてくれるなんて夢のような話だが、何かが違うのだ。
第一渋澤のような熱烈な告白はされていない。
されたところで返事に困るのだけれど。
だからまた今度というのは、いつになるかわからない、ないかもしれないまた今度だ。
「ごめん。また今度って言ったけど、僕今仕事が忙しくてしばらく時間は取れないや」
「そんな……」
苦しい言い訳だが、仕事が忙しいというのは本当だ。
社員旅行のスケジュールを立てたり、宿泊先を探したり、研修時の弁当屋を探したり、何より社員の50%を集めなくてはならないのでその方法を考えなくてはならない。
然り気無いロケーションアピールと、何より婦人服販売の会社なので女子社員が惹かれる何かがないと。
今のご時世、上司が行くなら部下も絶対!などという体育会系な体質は流行らない。
そんな会社だったら笹本自身、就職だってしていない筈だ。
まるっきり2人を相手にしない笹本に気付き、渋澤が顔を上げた。
「ほんとに忙しいんですか笹本さん」
「忙しいよ。うちの会社は経理は月末、人事は採用関係で10月頃から忙しいだろ。僕は今、社員旅行の案件でめちゃくちゃ忙しい」
「「社員旅行?」」
珍しく渋澤、小泉の声がハモる。
「ちょっと待って。それは笹本さんと一緒に旅行行けるってこと?」
渋澤のその言い方には語弊があるが確かに笹本も行かなくてはならない旅行であるため、2人も行くとなれば一緒に行くということにもなる。
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