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第94話
「それはそうだけど各部署ごとに行動は分かれるんじゃないかな」
分かれるんじゃないかな、ではなく、完全に別行動が望ましい。
「去年はそんなのなかったっすよね。笹本さんは社員旅行行ったことあります?」
「僕もないよ。初めてなんだ。何でも今回の旅行は5年振りで、去年の業績が良かったからってことらしいけど」
「へえ、そうなんだ」
店舗配属の社員、希望があればアルバイト社員も参加できる今回の社員旅行。
笹本は研修所のある温泉地のことやこれから笹本がしなくてはならない仕事を簡単に掻い摘んで2人に説明した。
笹本が話しているうちに日替わりランチとアイスコーヒーが運ばれてきて、あっと言う間に食べ終えた渋澤と小泉は、笹本の食べている姿をじっと見詰める。食べ辛いことこの上ない。
「笹本さん」
「なに」
「下見とかは行かないんですか?」
「下見?」
「そう。宿泊先探すにも前回の社員旅行が5年前だと、その周辺も結構様変わりしてるかもしれないし」
そう言って渋澤がアイスコーヒーを口に含む。
次いで小泉が顎に手をやり「んー」と唸った。
「確かにそれはあるかもしれないですね。俺その研修所に手伝いで1度行ったことあるんですけど、その時うちの部長が数年前の社員旅行で泊ったホテルが潰れたとか何とか、そういえば話ししてましたよ」
「えっ」
過去の社員旅行に関する資料を漁って、それに準えればいいかと軽く考えていただけに小泉の話には衝撃を受けた。
もしかして一から準備しなくてはならない面倒な仕事だったから自分に回ってきたのかもしれないと、笹本はこの時初めて気付いたのだ。
「行きますか?下見」
「そういうのは部長クラスの人達が研修という名目で行けばいいことで僕の仕事じゃない気がするけど」
「でも笹本さん、これってチャンスじゃないですか。上司連中を満足させることで笹本さんの評判も上がるし、早々とした出世のチャンスを生みますよ」
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