95 / 206
第95話
まだ25歳の入社3年目になる若造に出世のチャンスなど到来する筈もないのだが、渋澤の言う下見についての意見には一理ある。
しかしそれが自分の仕事かと問われれば、そこまで求められてはいないので違うとも思う。
でも自分の目できちんと見た方がいいのだろうか。
笹本が思い悩んでいると小泉が口を開いた。
「社員の50パー集めるんですよね。微力ですが協力したいです。店に配属された同期に声掛けるくらいなら俺でもできますから」
「あぁ、うん。ありがとう」
その傍らで渋澤がスマホを操作し、液晶画面を笹本に向けて差し出した。
「下見に迷ってんですよね。だったら俺も付き合います」
「は」
「下見の拠点とする宿ですよ。まぁビジホでいいと思うけど」
「ずるい。俺も一緒に行きます!」
小泉もずいっと前のめりになり身体をテーブルの上に乗せた。
スマホの画面をスクロールすると研修所周辺と最寄り駅周辺にあるホテル一覧が表示されている。
「え、なに。僕まだ下見するだなんて一言も」
「大丈夫です。笹本さんが決めた社員旅行の宿について、俺も後方から情報支援しますから。ともかく笹本さんの意見が通るように協力したいと思ってます。俺、一応交渉アナリストの資格も持ってるんで、宿代とそれに見合う内容のものを交渉する手伝いもできると思うんです」
「何その交渉アナリストって。胡散臭いな」
「交渉とか駆け引きについての基礎知識を学んだだけなんすけど、そういう資格もあるんです。おかげで値引き交渉するのは結構自信ありますよ」
そう言って渋澤がにかっと笑った。
そういえば渋澤は資格を色々持っていると言っていた。その交渉アナリストとやらもその一つなんだろうか。
「なんでそんな資格取ったんだ?」
「いつ転職してもいいようにですかね。それに今は経理だけど営業の方に異動になるかもしれないしって思ったら持っててもいい資格かなって」
渋澤には以外と真面目なところもある。きっと笹本の手助けをしたというのも本音だろう。
ともだちにシェアしよう!