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第96話
しかし───。
「そんなこと言って僕にまた変なことする気じゃないよな」
笹本がマスクを顎に引っ掛けたまま眼鏡越しに上目遣いで渋澤と小泉を見る。
2人の動きが一瞬固まったような気がしたのは気のせいだろうか。
「いや、全っ然」
「し、しません!」
渋澤の返事に引っ掛かりを感じたが、これは自分の一存で決めて行くならばただの旅行だ。
2人には上司に確認してから下見に行くかどうか伝えると約束し、3人はファミレスを出た。
雨はもう止んでいた。
その後笹本はその日のうちに前回の宿泊施設が今はないということと下見が必要かどうかを部長に確認した。すると下見はやはり部長も行くということだったが、「自費でそこまで調べてくれるのか。やっぱり笹本に頼んでよかったよ。こっちと笹本の情報を後で擦り合わせよう」と存外大きな声で言われてしまい、下見は自費で行かざるを得なくなってしまった。
「旅行まとめるの大変そうね」
笹本が机に戻ると向かいに座るふわふわ系女子村上が小声で話しかけてきた。
「えぇ、まぁ」
笹本の苦手とするこの村上はメイク、仕草、話し口調のどれをとっても男を意識しているのがありありと分かる。
モブ系笹本にすら猫なで声を出すのだから最早男ならば誰でもいいのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
しかしこんなふわふわした女子は笹本の好みじゃない。
「小泉君も行くの?」
あぁそういうことね、と、笹本に話しかけてきた理由が直ぐわかった。
「多分。というかアイツ人事なんで研修の手伝いとかで強制参加させられるんじゃないかと思うんですけど」
「言われてみればそうね。でね、今回の社員旅行なんだけどぉ、小泉君が行くのかどうか本社内の女子社員は気になってるわけ。あとは商品開発の増田くんでしょ、それからバイヤーの武田さん、それから」
「ちょっと待ってください。それ何ですか」
村上の口から次々と飛び出てくる男子社員の名前。
もしかしたら社員旅行に参加する人員集めの撒き餌となる名前かもしれないと、笹本は村上の話しに声を被せた。
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